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2008年11月 アーカイブ

2008年11月03日

1103 葺き上げ/屋根裏の木登り

職人の数が揃っている現場なので、屋根の表裏に分かれて同時に葺くことができています。
表裏ふたりずつの職人が、それぞれの両角に責任を持ちペアを組むので、表と裏で互いの早さと仕上がりの良さを横目に睨みつつ、何となく競争が始まります。
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葺き並べた茅の先が棟を越すようになると、表裏で押し合いになって仕事にならないところですが、そこは気心知れたもの同士、競争しつつも互いにタイミングを計って、現場を止めたりはしません。

棟近くまで葺き上がってくると、屋根裏で針受けをするのも、足場の確保に一苦労することになります。
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屋根裏で棟木を支える棟持柱によじ上っての作業。屋根屋には体重制限が避けられませんね。

無事に葺き上がり、棟を積む段取りにまでこぎつけました。
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小さな現場は茅葺屋で切り盛りすれば小回りが利きますが、棟を積み直すような大きな現場は、皆で集まって葺くと捗ります。互いに意識し合うから活気も出ますし。

とは言いながら、いつの間にやら色づきはじめた山に、季節が進んでいることを知らされます。
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雑木林の紅葉は、まず黄葉から始まるみたいです。

2008年11月06日

1106 棟収め

棟を積みます。
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今まで葺いて来たのとは90度向きを変えて、棟に平行な方向に茅を積み上げて棟のかたちにして行きます。

水平を確認しながらかたち良く棟を積み上げたら、今度は再び棟に直角方向に稲ワラを葺き並べます。
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これによって棟を支える押さえ竹を充分に雨から養生し、仕上げの杉皮を水仕舞い良く置けるようにもなり、しっかりと固まった丈夫な棟になります。

棟を直接防水するために、二つ折りにした杉皮を敷き並べます。
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杉皮が風で飛ばされないように角材(カラミと呼びます)で押さえていますが、この段階では棟の裏表で吊り合っているだけで、固定はされていません。

栗材の棟飾り「ウマノリ」を載せます。ウマノリには杉皮を押さえる面にアゴが欠いてあって、カラミが引っかかるようになっています。
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つまり、棟を雨から守る杉皮に穴をあけたりせずに、ウマノリで棟全体を挟むようにして固めています。美山の茅葺き屋根のウマノリが、大きく重いのは伊達ではありません。

豊かな地域性は茅葺き屋根の魅力のひとつですが、棟の収め方には特に地域による創意工夫が見て取れて楽しいです。

2008年11月11日

1111 刈込み

棟が収まったら仕上げのハサミをかけて刈込みます。
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ウマノリの上に乗っている丸太は「ユキワリ」と呼ぶ飾りですが、ウマノリの位置を保つ役目も果たします。
両端がピンと跳ね上がっているのは、根まで掘りおこして伐採した杉丸太を使っているからです。根ごと伐ろうとするときチェーンソーがとても傷むので我々ではここまでのものは出来ませんが、お施主さんがこだわりを持ってご用意されていたものを使わせて頂きました。
格好良いですね。

仕上げのハサミをかけることで屋根は平滑になり、見た目に美しいだけでなく水はけが良く丈夫になります。
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ただ、茅の材として一番丈夫な根本の部分を切ってしまう訳ですから、わずかに刈れば平らになるように、葺く段階できちんと屋根のかたちを出しておくことが肝要です。

現場の裏の畔で採った野イチゴ。名前は良くわかりませんが、程良い酸味が美味でした。
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秋は深まって山も里も実りの季節を迎えています。

心地よい季節の中、刈込み仕上げも軒を残すのみとなりました。
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2008年11月14日

1114 竣工

美山の山は紅葉の盛りを迎えつつあります。
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今年の紅葉は少し早いように思います。来月あたまのカヤカルまで保ってほしいのですが・・・

午後の日溜まりの中には、雪虫がふわふわと飛んでいました。
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今年は雪も早いのかなあ・・・茅刈り前のススキを押しつぶされないか心配です。

現場の周りの山も色づいています。
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でも、ナラ枯れで葉の無い木々が痛々しいです。
紅葉は来年の新緑が約束されているから、美しいのだと思います。来年の夏には枯れて赤くなるかも知れない木々の彩りは、眺めていて哀しくなります。

屋根の方は、軒を刈り落として揃えたら、足場を解体して掃除。
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そして、竣工しました。
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2008年11月15日

1115 古屋根解体

ナカノさんの美山茅葺き株式会社の現場の応援に、美山町の野添地区にやってきました。

こちらのお宅は、母屋の正面を茅葺きのまま軒まで葺き下ろし、小屋も茅葺きで残されるなど、昔ながらの佇まいに愛着を持って守られているご様子が伺えます。
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美山の屋敷構えは、こちらのように小屋・母屋・土蔵が横一列に並び、小屋と蔵は母屋に棟方向が直交するものが、最も一般的に見られます。

まずは、母屋を葺き替えます。
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よく見るとそこここに押さえの竹が出て来てしまって、葺き替え時を迎えていることがわかります。

今回は棟まで葺き替えますが、一度にめくってしまうと工事用のブルーシートだけで養生する面積が大きくなり過ぎ、強く風に吹かれると雨漏りの心配が生じるので、まずは下半分だけをめくります。
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古茅はめくり取る時に分別し、再利用可能なものは長さごとにまとめ、使えないものは畑へと向かいます。

晩秋のこの時期、乾いて暖かな茅葺き屋根には、冬眠するために様々な虫たちが潜り込んでいます。屋根めくりの際に古茅ごと掴んでしまうと、カメムシなら臭いくらいですみますが、アシナガバチだと痛い思いをすることになります。しかも、後で猛烈にかゆくなります。
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夏場の鮮やかなレモンイエローは面影も無く、冬眠モードなのか焦げ茶色にくすんでふらふらしていて、まともに飛ぶことも出来ませんが、さすがに掴んだりすれば刺されることになります。
でも、焦げ茶色で動かないから、茅に紛れてなかなか気付かないんです。もっと、派手なままでいてくれたら良いのに。

2008年11月18日

1118 下地揃え

古屋根をめくり取ったら、屋根下地を直します。
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丸太と竹をワラ縄で結わえてあるだけの茅葺き屋根の下地は、しなやかで丈夫なのですが、時間が経つと縄が切れたり竹が虫食いにあって緩んでくるので、葺き替えの度に整えてやります。

こちらのお宅のように、茅葺き屋根に瓦の庇を差し込む錣(シコロ)屋根とせずに、昔ながらに茅葺きのまま軒まで葺き下ろしていると、レン(垂木の丸太)の分だけ軒裏から屋根裏へと空気の抜ける隙間が保たれます。
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屋根裏の換気が充分なされることが、茅葺き屋根の寿命に大きく影響しているように感じているので、屋根の一部なりとも葺き下ろしにしておくと、良いのではないかと思います。風情もありますしね。

屋根に穴をあけたので、屋根裏の様子も良くわかります。
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合掌材と棟束を併用する構造は、あまり古くない美山の茅葺き屋根に多く見られます。
毎年刈り貯めた茅がこの小屋裏一杯なると、ちょうど1回分の工事に間に合うくらいの量になっています。
最近ではお施主さんが茅を用意されることは少なくなりましたけれども。

こちらのお宅のある集落は西向きの高台にあり、美山では珍しくきれいに夕焼けが見られます。
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盛りを迎えた紅葉が夕日に照らされて、山が燃えるように輝いています。

2008年11月19日

1119 軒付け

今朝は冷え込んで、この秋初めて本格的に霜が下りました。
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眺めている分にはきれいでも、足場の丸太も真っ白になって、滑るし爪先は辛くなるし、地下足袋を履いた足には堪えます。

しかし、霜の降った日には、朝霧が晴れれば上空には青空が控えているものです。
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暖かな陽射しにぬくもりを覚えながら、順調に軒付けの作業が進みます。

紅葉が深みを増して行くにつれて、秋の実りもゆっくりと熟して行きます。
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美山にいるあいだは、旬の野菜が並ぶ農協の販売所を良く利用します。
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ナメコも秋の深まりとともに大きく育ち、街のスーパーで売っているものとはかたちからして随分違います。食べごたえがあって、美味しい!

2008年11月20日

1120 葺き上げ/小雪

小雪を前にして、とうとう今年最初の雪が積もりました。
美山では本格的な雪の季節は年末からですが、毎年小雪の時期に秋の終わりを告げるように一度雪が積もります。
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この雪に茅が潰されてしまうと、一番大切な根本の部分が折れてしまいます。美山の茅刈りは紅葉に急かされ初雪に追われて行われます。
来月始めには茅刈り体験会(カヤカル@美山)が予定されています。幸い今回はうっすら雪化粧程度で済みましたが、ひやひやものです。

現場も雪化粧。
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何度雪かきしても夜の間に降った雪でリセットされてしまい、毎朝雪かきしながら屋根を葺いた、何年か前の嫌な記憶が甦ります。

まあ、今年の秋は今のところ天候も安定しています。
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朝日が当たると薄化粧の雪はたちまち消えてしまいました。

無事に軒はつきました。雪の季節までに仕上がるように、張り切って葺いて行かなければ。
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2008年11月21日

1121 棟の解体

めくり取った部分が埋まるまでには、まだもう何段か葺き上がることは出来るのですが、明日から茅葺屋チームはこちらの現場をしばらく留守にさせて頂くので、人数の揃っているうちに棟の解体を進めておきます。
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重いウマノリを下ろすのは危険な作業なので、慣れた人を揃えて段取り良く進めておく方が安心なので。

棟を雨から養生する杉皮を押さえるウマノリを外せば、その杉皮も外して下ろし、杉皮に養生されている棟に横積みした茅も解体します。
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どちらにしても、棟を交換するくらいに屋根の傷みが進んでいれば、棟の中にも多少なりとも雨が入ってしまって、積み上げた棟を止める縄もあちこち切れてしまっていますから。

棟から雨漏りしないように、厳重に、しかし作業する時には簡単にめくり上げることの出来るように養生しておきます。
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雨だけではなく雪が積もっても、シートを上げれば雪かきに煩わされずに作業を進めることができます。

2008年11月22日

1122 丹後の笹葺き'08

毎年恒例の「笹葺きパートナーズ」による丹後での笹葺き、4年かかって上世屋の民家の屋根の葺き替えを完成し、今年から2棟目の屋根にとりかかれるまでになっています。
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作業の中心となる立命館大学経営学部の学生による、「丹後村おこし開発チーム」の面々は、今や笹刈りから笹葺きまで一貫してこなす、日本唯一の技能集団に育っています。

こちらの家は昭和10年に建てられた際に葺かれて以来、先日お亡くなりになったご当主自らが差し茅を続けて維持されて来たそうです。
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つまりは、一世紀近く囲炉裏やかまどの火で燻され続けて来た煤が、年月の分だけ屋根に溜まっているということで、古い屋根を解体する作業はものすごいことになりました。

家の中で煮炊きや照明のために火を使っていた頃には、茅葺き屋根は煤けているのがあたりまえで、皮膚に染み込む煤は洗っても簡単には落ちず、屋根屋は常に顔も手も黒かったものだそうです。
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しかし、最近では我々現役の屋根屋でもこれほど煤けた屋根には滅多にお目にかかりません。
にもかかわらず、丹後村おこし開発チームの学生たちは怯みもせずに、手際の良いチームワークで煤けた笹を屋根から下し、堆肥にするために積み上げて行きます。

古い屋根を下ろしたら、昨年末に刈っておいた笹を葺いて行きます。
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もともとは「笹葺き民家を守るために」始まった笹刈り。毎年刈り続けることで雑木林の植生が豊かになって行くことを実感し、笹刈りは学生たちにとって、「里山の自然と関わりを持つため」の営みとなりつつあるのではないでしょうか。

笹葺き民家の活用が里山の自然を守る営みの動機となることで、文化財の保存と生態系の保全、地域コミュニティの活性化が繋がり、人と自然、人と人とをつなぐ環が広がって行きつつあることを感じます。
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2008年11月29日

1129 茅刈りの季節/八多町の取り組み

神戸市北区の八多町には、珍しい茅葺き屋根の公民館「ふれあいセンター」があります。
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その屋根を守るために、地元自治会は中学生も参加した茅刈りを、毎年重ねて来られました。
昨年まではおじさんたちが草刈り機で刈り倒したものを、中学生は束ねて行くだけだったそうですが、せっかくなので茅刈りという文化を継承する機会にしようと、茅葺屋もお手伝いさせて頂き昔ながらの手刈りに取り組むことになりました。

刈り方と、刃物の扱い、安全注意事項を伝えたら、早速茅場に入ってもらいます。
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ここのような溜め池の堤は、決壊を防ぐために草の根を張らしておく必要があり、肥料や飼料として茅が必要とされなくなった後も、草刈りによる手入れが続けられているところが多く良い茅場になっています。
中学生たちはグループごとに、自治会のおじさんたちの指導を受けながら。

最初はおっかなびっくりで腰の引けていた子供たちも、次第に鎌の扱い方も茅のさばき方も、様になって来ました。
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最近では田舎といえども、大人も子供も忙しくてなかなか近所の人たちと触れ合う機会も乏しいように思いますが、茅の刈り方ひとつでも技術の伝承を通じて、世代間交流が進めばうれしいですね。

そして、人と自然の触れ合いも。
長年草刈りが滞り無く行われて来たここの茅場には、今まで見た中で一番たくさんのカヤネズミの巣が見付かりました。
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自分たちが茅葺き屋根のために茅を刈ることが、小さな生き物たちの暮らしを支えることにも繋がることを知ってもらい、子供たちが地域の自然と文化に興味を持つきっかけにもなってもらえたらと思います。

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