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茅葺き現場日誌@神戸/赤井家住宅 アーカイブ

2009年06月01日

0304 古屋根解体

神戸市の登録文化財にもなっている赤井家住宅にやって来ました。
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長らく物置になっていて、雨漏りの始まった屋根には一部シートが被せられた状態でしたが、所有されるあかい工房経営赤井さんが、会社のオフィス兼、地域に開かれた古民家とするべく再生されるのを、お手伝いさせて頂きます。

ギリギリまで葺き替えを伸ばして保たせた屋根は、古い部分はおそらく60年、70年前に葺かれたもの。
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当時はおクドさんや囲炉裏を使って、毎日家の中で火を焚いていたでしょうから、古茅にはたっぷりと煤が積もっていました。

飴色の煤竹は丈夫そのものですが、前回の葺き替えで交換されたらしい白い竹には、虫食いでだめになっているものも少なくはありませんでした。
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煤竹には虫がつかないというよりも、切り旬が良くて虫のつかなかった竹だけが葺き替えの度に繰り返し再利用されて、長い時間をかけて煤竹になっているようです。

ところで、屋根をめくって行くと、かつておクドさんがあったであろうあたりの上に、こんなものが半ば茅に埋もれていました。
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大きさはこれくらい。
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瓦と一緒に葺かれていました。煙突のようにも見えますが穴は塞がっています。結局、何のためのものかは判りませんでした。
どなたかご存知ではありませんか?

古屋根を全てはぎ取って軽くしたら、低い地盤はかさ上げして、傷んだ柱の根本には新しい材を継いで直すために、一旦建物全体を基礎から持ち上げます。
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ですから、足場も全て解体してから、厳重に屋根の養生をしてひとまず帰ることとなります。
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0509 下地拵え

大工さんによる土台や柱の補修が済んだので、赤井家住宅に戻って来ました。
足場を組み直したら、下地の補修にかかります。
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赤井家の小屋組は美山でよく見られるウダツ(棟束)が無く、合掌材だけで支えられています。

さらに、合掌材の根本も美山のような二重梁の上ではなくて、桁に直接載っています。
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構造が合理化されて部材が整理されたおかげで、屋根裏に生まれた大空間は、毎年刈り貯めた茅を蓄えたりするのに重宝されて来たことでしょう。

丸太と竹を縄だけで結わえて組み上げられた茅葺き屋根の下地は、とてもしなやかで丈夫です。
しなやかさを保つために、葺き替えの際には傷んだ竹や丸太は交換して、縄もかけかえます。
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何百、場合によっては何千もある結び目を掛けかえるのは大変ですが、古民家族が応援に来てくれました。

茅葺き古民家の再生に取り組む彼等は、ワラ縄の扱いにもすっかり慣れて、男結びも習得しつつあります。
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おかげさまで、下地括りはずいぶん捗りました。
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ありがとうございました!

0601 軒付け

修復前とは茅葺き屋根のかたちも少し変わります。
それに合わせての下地拵えも全て終わりました。
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早速軒付けにかかります。
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今週末に開催予定の、茅葺き現場体験会カヤマル'09@神戸までに、参加者の皆さんに葺いてもらえる工程まで進めておかなければなりません。

ところで、葺き替えを始める前には、家の裏手にこんな蔵がありました。
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敷地に余裕が無く取り壊されてしまいましたが、その壁土は新しい土や藁スサと混ぜられて、赤井家住宅の壁を塗り直すために、寝かされています。
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古い土を混ぜて良く寝かせてから壁に塗ると、とても丈夫になるそうです。
何でも古壁の酵素が大切なのだとか。パン種みたいですね。

2009年06月04日

0604 葺き上げ/狭くても葺き上げ

6月に入ったとたんに、空模様があやしくなって来ました。
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週末を目指してどんどん葺いて行きます。

材料もどんどん運ばれて来ます。
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干し草の山があったら、そりゃ登りたくなるね!

茅葺き屋根は雨水の流れる表面から少しずつ減って行き、年々薄くなって行きます。
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雨漏りする程薄くなっていた赤井家の屋根に接して、後年ガレージが建てられていました。

このまま新しい屋根を葺いたら、軒が隣りの建物にめり込んでしまいます。
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そこで、収まりを考えて屋根のかたちを変えたりもしたのですが、それでもこんなややこしいところも残ってしまいました。
丁稚サガラが苦労しながらカドをつけています。

美山茅葺き(株)から職人オーサキとマツキに丁稚コースケが。山城萱葺き屋根工事からウエノくんが応援に来てくれています。
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腕利きの若手が集まってくれて、体験会の準備が間に合いました。

2009年06月07日

0607 カヤマル'09@神戸/赤井家住宅

茅葺き屋根の葺き替えを、たくさんの人が交流する機会として活かそうと、上津茅葺き保存会主催による茅葺き体験会、カヤマル'09@神戸が開催されました。
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地下足袋にヘルメットで決まった参加者の皆さん。
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職人の手解きを受けながら、実際に茅を捌いて並べて行きます。

長さや堅さが様々な茅を、それぞれの性質を活かしながら所定の厚さまで並べたら、仮押さえしてから屋根のかたちに叩き揃えて行きます。
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大胸筋と僧帽筋が鍛えられます!

屋根のかたちが整ったら、押さえの竹を縫い止めて行きます。
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屋根の外から大きな針で針金を差し入れたら・・・

屋根裏ではレン(垂木)の際に誘導して、レンに針金がまわるように架け替えてやります。
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最後にみんなで並んで、タイミングを合わせながら押さえの竹を踏み固めたら、ひと工程が終了です。
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たっぷり体を使ったら、いつも最高のお昼ご飯をあかい工房さんが用意して下さいました。
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地鶏の親子丼、忘れられません!

茅葺き屋根を葺いていたことは覚えていなくても、みんなで集まって遊んだ、とても楽しい夏の日の想い出の中に、茅の匂いや屋根を葺く音は刻み込まれて、いつか、懐かしく思い出すこともあるでしょう。
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色々なところから、色々な人たちが集まって、ひとつの屋根を力を合わせて葺いた2日間。
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茅葺き屋根と、あかい工房の人たちの、人と人を繋ぐ力にあらためてほれぼれとした2日間でした。


2009年06月12日

0612 下地拵え-小棟-

カヤマル済んで、今まで手を付けていなかった、上の方の下地を仕上げにかかります。
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養生シートは面積が大きくなる程に風を孕んで危険になるので、今回のように屋根全面を葺き替える際でも、一度に全てのシートをめくって作業することは避けるようにします。

軒まわりの茅屋根が葺きあがってから、一旦シートを外して上の方の下地を仕上げ棟まで葺いて上がれるように段取りし、軒がついた分だけ一回り小さなシートを使って養生します。
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この屋根は美山と同じく、寄せ棟の構造に小棟と呼ばれる、破風(煙出し)の部分が載ったつくりになっています。
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入母屋の破風まわりは茅の収まりもややこしくなるのでそれに対応できるように下地にも細やかな心配りが必要になります。

2009年06月20日

0620 葺き上がり

葺き並べた茅の穂先が棟に届くようになると、表と裏で並べた茅が押し合い邪魔をするので、まず道路に面した側だけを棟まで葺き上げました。
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棟を越えてはみ出して来た茅を切り揃えてから、庭に面した側の屋根も葺いて行きます。
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はみ出していた茅は棟の材料の一部となります。

屋根が下地に対して起き過ぎれば並べた茅は固まらず傷みやすく、寝過ぎれば薄く寿命の短い屋根になってしまいます。
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適切な勾配に気を配って葺いて来ましたが、念には念を入れて最後の確認。
表と裏で葺き勾配が違えば、棟が傾いてしまいますから。

無事に葺き上がり、いよいよ明日からは棟積みです。
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2009年06月24日

0624 棟収め

棟を積んで行く手順は美山の屋根と同じです。
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棟に横積みした茅を止める一番最後のオシボコを、覆って養生するのに短い藁や茅のシン(穂先)では無く、長いままのススキを用いるのが少し違います。
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養生する材料が棟の端からこぼれ落ちないように塞き止めるのに、杉皮で巻いたワラ束ではなく、板材を組んだ木製のものを使っているので、それに合わせて形を整えるためです。
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この木製の端止めは、棟の仕上げにトタン板を使った場合とても具合が良さそうでした。

今回は杉皮を使ったのであまりメリットは感じず、むしろワラ束の方が馴染みが良さそうに思います。
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最後に美山と同じような木を組んだ所謂「千木」を棟飾りに据えますが、実はひとつひとつのサイズは美山のウマノリの半分もありません。
美山のウマノリが杉皮を押さえる角材を重さで固定していたのに対して、神戸の棟は杉皮の隙間から針金で縫い止めてしまっていて、ウマノリは文字通り棟の「飾り」以上の機能を持たないので、大きく重い必要が無いからです。

神戸の茅葺き屋根は入母屋で千木の棟で、美山の屋根と見た目はそっくりですが、実際に葺いてみるとやはり細かいところは少しずつ違います
例えば棟は、針金やトタン板のような金属材料をより活用するように配慮されている印象を持ちました。

2009年06月28日

0628 刈込み

無事に棟も収まって、仕上げにハサミで刈込みます。
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見ているさくさくと子気味良く刈って行くようですが、大きな屋根鋏は重くて疲れるし、仕上げた屋根の照り返しはきついし、なかなか厳しい作業です。
それでもやはり、個人的に刈込みは「屋根屋の花道」だと思います。
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ハサミが切れないと疲れるだけではなく、仕上がりにも響いてしまうので日に何度も研ぎ直します。
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たとえどんなにハサミが切れても、葺いて上がる段階で正しく葺かれていない屋根は、刈込んでもきれいに輝いてはくれません。
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長い工期のあいだ毎日積み重ねて来たことが誰の目にも明らかになるので、刈込みは怖くもあり誇らしくもあるのです。

2009年07月04日

0704 軒刈り/竣工

棟から順に刈込んでは足場を外して来て、軒まで下りて来たら軒裏を刈り落とします。
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葺き替える度に屋根は新しく甦りますが、全く真新しくなるのではなく、葺き替えを重ねた趣きを匂わせてくれるというか、何とも言えない味わいを備えていると思います。
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葺き替える前の姿と比べてみると、新しくなったことで機能的な頼もしさを取り戻しながら、新品のいやらしさををまとわないのは、自然素材と手仕事による茅葺きという建築ならではでしょう。
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足場が外れて、道路側と庭側とで大きく異なるこの屋根の表情を楽しめるようになりました。
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間もなく大工さんと左官屋さんによって屋根の下もレストアされて、あかい工房オフィス兼、上津茅葺き保存会の拠点として、多くの方々を繋ぐ場となり、末永く愛されて行くのでしょう。
そんな屋根に茅葺屋として携わらせて頂けて、本当に幸せでした。

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