070501 丹後の笹葺き

投稿日: 4件のコメントカテゴリー: トタン考茅葺き現場日誌@丹後旧永島家

蚕室として利用する中2階への通風のために、茅屋根の軒を切り上げて窓を設け、妻側の壁を大きく曝す旧永島家住宅の造りは、丹後の山村集落で普通に見られる民家の造りです。
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ただオリジナルの丹後の民家は、茅材としてススキやヨシではなくササを用いる、笹葺きが一般的だったようです。

宮津では笹葺き文化を継承し里山の再興を目指そうと、立命館大学経営学部学生有志や地元NPO、森林組合などが「笹葺きパートナーズ」という活動を続けていて、本ブログに度々登場してもらっているヤマダさんも中心的な役割で活躍されているため、僕も何度かお手伝いにお邪魔したことがありました。
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今回せっかく宮津まで来ているので、帰る前に活動拠点として笹葺きの屋根を葺いている、上世屋という集落の様子を見に行って来ました。

毎年笹刈りをして収穫した分だけ葺き進めているのですが、今年の秋の収穫分でいよいよ葺き収まりそうなくらいに捗っていました。
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表面に笹の葉が密集していることからわかるように、ここで笹は元を上にして葉先を外に出した逆葺きで葺かれています。
逆葺きの笹葺きは、今ではここ丹後と能登にわずか数軒ずつが残っているだけの、貴重な技術となってしまいました。

しかし実は笹はつい最近まで、丹後から由良川水系に沿った福知山、綾部あたりまで、広く茅材として用いられていました。
この写真は由良川周辺に大きな被害の出た記憶も新しい、2004年の台風23号の直後に撮ったもので、強風によって「缶詰」屋根のトタンが飛ばされてしまったところ、中から笹葺きの屋根が現れています。
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定期的な葺き替えの必要な茅葺き屋根は、たとえ重要文化財であっても、わずか数十年前の屋根の実態を知ることすら難しくなってしまいます。しかし、トタンを被せられている屋根では、内部の茅葺き屋根は被せられた当時のものが長く保存されることになります。カンヅメ屋根はかつて茅葺きが当たり前であった時代の、地域毎の特色を活かした豊かな材料や技術を保存してくれてもいるのです。

トタンを被せられた茅葺き民家について、以前「茅葺きに厳しい時代を乗り切り次代に繋ぐための文字通りカンヅメとして」 「人の暮らしとともに変遷する民家のある時代を象徴するスタイルとして」もっと評価するべきだと書きましたが、歴史資料としても学ぶべきことの多い、大切なものだと思っています。

ところで上世屋を訪ねた目的は、実は笹葺きの様子を見るだけではなく、この棚田を見ておきたかったからでもあります。
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笹葺きのお手伝いに来るときは常に晩秋だったのですが、見事な棚田に水を張ったところを是非一度見ておきたかったもので。
ところどころ休耕田も目につくようにはなっていましたが、文化としての茅葺き屋根は周りの里山と一体としてでなくては成立しませんから、笹葺き再興の取り組みがいずれはこの棚田を活かしてくれるようになることも期待してしまいます。

0614 差し茅/カンヅメ屋根の維持

投稿日: 5件のコメントカテゴリー: トタン考茅葺き現場日誌@美山/M窯

雨の季節が近づき、路面のカエルに気を取られながらの、危険な運転が続きます。
今日は、カーブを曲がったところに道路を横断中の亀(クサガメ?)が!
咄嗟に跨いで躱しましたが、亀の方は直前で頭と四肢をひゅっと甲羅にしまっていました。
そんなことしても、意味ないのだけれど・・・
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僕はライフスタイルとしての茅葺きを広めて行くことで、絵空事ではない人と自然の共生する社会の実現を目指しているのですが、人間と野生動物の生活域が無理矢理に重なると、ロードキル(Road Kill)が頻発することになります。
おそらく産卵のために川から上がって来たのであろう亀を、道路の反対側まで運びながら色々と考えさせられました。隣人との付き合い方がとても下手になっているように感じます。人間の方が。

現場の方は屋根を合わせてから後は順調に差し茅を続けて、今回修理するアリゴシから下はだいたいかたちになりました。
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手前の方丈の方は傷みが酷くて、正直「葺き変えた方が早い」と思わないでもありません。
しかし、たとえ葺くのと変わらない程の手間がかかっても、差し茅にすれば材料は節約できます。今回は方丈は差し茅で凌いで予算を圧縮する方針なので、職人としてやるべきことは決まっています。

ところで、美山町内の現場から少し離れたところでは、トタンを被せられたカンヅメ屋根に、さらにトタンを被せるという工事が行われています。
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住む人の生活や社会の変化により、ススキやヨシや麦ワラが屋根葺き材として合理的ではなくなったときに、より合理的な屋根材として「茅葺き屋根」を葺いて来たトタン板ですが、実はそれほど耐久性に優れているというわけでもありません。
施工後再塗装必要になるまでの期間は、製品それぞれの塗膜の性能如何によりますが大体10年〜20年くらいのようです。塗り直しは吹き付け塗装でおこなわれるので、その後は5年〜10年毎に行う必要があります。

それでも、自給自足的な伝統的生産システムが崩壊して後、住人の生活がより大きな経済システムの中に組み込まれてからは、お金を出せば買えるということは、安定的に屋根を維持して行くために大切なことでした。
また、茅葺きのサイクルが伝統的な生産システムに組み込まれていた時には、古屋根の茅くずが貴重な資源であったため、茅葺き屋根は必ずしも長持ちする必要はありませんでしたから、長持ちさせるための葺き方も十分には発達しませんでした。
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現在美山を中心に葺かれている茅葺き屋根は、耐久性の面で金属による覆いをされた場合に劣ることは、決してないと思っています。
さらに物理的にも情報としても大きく広がった個人の生活圏に合わせた、新しい茅葺きのサイクルを確立していくことで、トタン板よりも茅のほうが合理的な葺き材だという環境を、これからは用意して行くことが出来るはずだと考えています。