060314 トタンは茅葺きの缶詰

投稿日: 6件のコメントカテゴリー: トタン考屋根からの眺め

現在、日本の茅葺き屋根のほとんどにトタンが被せられています。
茅葺き民家愛好家の方からは、「カンヅメ」等とよばれてあまり評価してもらえないようです。

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しかし、トタンを被せたからこそ、茅葺き屋根を成り立たせていた伝統的な農業が行われなくなった後も、これほど多くの茅葺き民家を残せて来れたことは、間違いなく事実です。

トタンで覆われた屋根は、まさしく「茅葺きの缶詰」なのです。茅葺き屋根に厳しい時代を乗り切り、未来へ託すための。
sh@

060324 トタンも「茅」のうち

投稿日: 10件のコメントカテゴリー: トタン考屋根からの眺め

茅葺き屋根は、そこに暮らす人にとって最も合理的に入手できる材料で葺かれます。

山がちなところではススキや笹で、水辺近くではヨシやガマで、農地が発達していれば小麦わらや稲わらで、南の島ではヤシやバナナの葉で。

これは奈良の稲わら葺き。奈良では山地ではススキ葺きが主流ですが、国中(くんなか)と呼ばれる農地の整備された奈良盆地では、稲わら葺きが多かったそうです。
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ただし、最も合理的な材料は、社会背景の変化に伴って変遷するものです。
ススキで葺かれていた屋根が、周辺の開墾が進んで茅場が遠くなり畑が増えれば、小麦わらに葺き替えられることもあったことでしょう。

ならば、茅葺きが農の暮らしと切り離され、工業製品を購入するのが最も合理的だった時代においては、トタンによって葺かれるのが自然な姿だったとも言えます。

そして今、自然と共生する暮らしがもとめられるようになってきたのならば、またトタンを剥がして茅に葺き替えれば良いだけの話だと思います。
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トタンを剥がせば中にはちゃんと茅葺き屋根が入っているのですから。

次はどんな「茅」で葺くのか?
それは、現代の日本でどのようにして茅葺きとともに暮らすのか、そのアイディア次第ということです。
sh@

060326 トタンもスタイルのひとつ

投稿日: 2件のコメントカテゴリー: トタン考

瓦や金属板やが開発されたり、木を板に挽けるようになる以前には、広い面積の屋根を覆うための材料としては、一般的に土や毛皮の他には茅葺きしかありませんでしたから、茅葺き屋根の民家は世界中で見ることができます。
しかし、茅葺き屋根をすっぽり金属屋根で覆ってしまうというのは、おそらく日本だけでなされているのではないでしょうか。

ヨーロッパの茅葺きは茅材の根元を屋根の外側に出して厚めに葺く、「真葺き(まぶき)」という葺き方をする点で日本のそれと近いものがあるのですが、当地では茅葺きでもスレート葺きでも、あるいは石やタイルや金属板で葺かれていても、屋根の勾配や下地構造にたいした変化はありませんので、茅葺きの葺き替えをしたくなければ、気軽に他の材料を選ぶことができてしまいます。わざわざ被せる必要はありません。
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これはイギリスの例ですが、茅葺きに戻すのも簡単で、茅葺きが他のマテリアルと変わらぬ選択肢として用意できるという点で、うらやましくもあります。

世界的には茅材の穂先を外に出す、「逆葺き(さかぶき)」の方が多いと思いますが、逆葺きは薄く簡単に葺いて、傷むのも早いけれどまたすぐに葺き替えたら良いという考え方が普通なので、茅葺きをやめるときにはやはりわざわざ被せたりせずに、別の材料に取り替えてしまいます。
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これはバングラディシュの例ですが、中央奥が従来の茅葺き、手前左右がトタンに葺き換えられた屋根です。トタンに換えられた屋根の中には、茅は入っていません。

茅葺きが農の営みの中で必要とされず、金属板を現金で購入する方が自然な行為であった時代に、茅葺き屋根の遮熱性能や外観を保つための工夫として、日本独自に発達した「カンヅメ屋根」は、「ある時代を代表する民家の様式」として認められてもよいのではないでしょうか?

民家を滅び行く過去の遺物ではなく、今も生きづつける文化として捉えたならば、そのような考え方にも違和感は無いと思うのですが・・・
sh@

061119 トタンは美しい、こともある

投稿日: 7件のコメントカテゴリー: トタン考

久し振りに、トタンを被せられた茅葺き民家について。

トタンなどの金属板を被せられたら、それはもう茅葺きではないという見方もあるでしょうが、僕はトタンも数ある茅葺き屋根のバリエーションのひとつという考えですから、茅葺き屋根の様式が気になるように、「トタンの被せられ方」にもいちいち目が行ってしまいます。

北摂丹波地域には、内部の茅葺き屋根のプロポーションを忠実に再現し、板金細工で棟飾りまで拵えたトタンの屋根がたくさんあります。
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これらは比較的早い時期にトタンを被せられたものが多く、実は茅葺き職人から板金屋さんに転職された方によって葺かれていたりします。
オリジナルの木で出来た破風(三角の煙り出し)をそのまま用いていたり、あくまでも茅葺き屋根を葺き換えるにあたって、材料のひとつとしてトタンを選択したという姿勢を見て取ることが出来ます。

茅葺きという文化を支えていた伝統的な農業が行われなくなり、材料としてススキや小麦ワラよりもトタン板の方が合理的になって来た世の中の変化に合わせて、職人としてトタン板を扱う技術も習得して、茅葺き屋根に携わり続けた先輩方の生き方には感銘を覚えます。
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実際これらの屋根は農村風景の中にも馴染んでいるように思えます。
もちろん茅葺き本来の、自然と共生する人の暮らしによって培われる風景からもたらされる、安らぎのようなものには欠けるかもしれませんが、そもそも茅葺きが象徴した循環する生産システムの失われつつある現在の農村においては、純粋にその形態の美しさは讃えられても良いのではないでしょうか。

一方で最近よく見られるトタンを被せられた屋根に、瓦型にプレスされたトタン板によるものがあります。
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こちらは出来合いのパーツをメーカーの仕様に従って組み合わせて葺くものなのですが、茅葺き屋根を土台として新しい屋根を作るようなところがあり、建物全体としてのバランスとしては妙に頭でっかちになってしまいがちです。

板金職人さんがハサミでトタンをチョキチョキ切りながら葺いた屋根は、トタンを被せられても豊かな地域性を意外に残していることに驚かされますが、瓦型プレス板金の場合は内部の茅屋根に関係なく同じ仕様の屋根を乗っけているだけなので、全国どこであっても何だか変化に乏しい屋根になってしまうのも残念です。

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繰り返しになりますが、トタンを被せられたからといって茅葺き屋根は終わりではありません。環境が整えばまた剥がせば良いだけのことですから。
しかし、民家の姿は時代や環境に合わせて変化して行くものですから、ある時期を象徴する茅葺き屋根のスタイルとしてまずトタンを認めたうえで、「良いトタン」や「いまひとつのトタン」と批評してみるのも面白いのではないでしょうか。

061122 湖北の茅葺きの里

投稿日: 7件のコメントカテゴリー: トタン考屋根からの眺め

滋賀県マキノ町の在原という茅葺きの集落を訪ねて来ました。
扇状地にある市街地から谷を遡り山へ分け入った、いわゆる隠れ里と呼ばれるような集落です。

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滋賀の茅葺きというとヨシで葺かれたものをイメージされるかもしれませんが、湖岸を離れた場所ではススキが使われるの普通で、在原の屋根もススキで葺かれています。
ヨシはとても重量があるので、船で運んで行ける場所でなければ使いづらかったのかもしれません。

ここを訪ねた目的のひとつは、サガラのターレットトラックの回収です。
ターレットトラックとは、魚市場などでトロ箱をいっぱい積んで構内を走り回ったりしている、アレです。
生来インドア派のようですが、茅運びにも活躍してくれたら良いのですが・・・
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背後の民家の屋根は、初夏にヤマダさんの山城萱葺屋根工事によって、手前の小間を葺き換えられています。
サガラはそのとき在原に泊まり込みで手伝っていました。

さらにその奥の民家は、マイミクのふくい さんがセルフビルドで廃屋を一旦基礎まで解体してから、再建中のものです。もちろん、茅葺き屋根もセルフで。すごい。
今回はお留守でしたが。

もともと在原には職人さんが入ることはあまりなく、ごく最近まで住人の方が茅を集めて自ら葺くのが普通だったようです。
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今でも雪の季節を前にして、あたりまえにススキが刈り集められ、軒下で干されています。

それは、積雪の多い土地で雪囲いとしての需要があるからかもしれません。
ビニールトタンの雪囲いに比べて茅束の雪囲いは明るさで劣るものの、断熱性能に優れてすきま風も防ぐので暖かいそうで、2つを組み合わせると具合が良いようです。
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雪囲いにするために茅を刈るので、その茅を使って屋根のメンテナンスもする。と、いうのは、茅葺きを守るために茅を刈る、というのに比べて合理的で健全な気がします。

とは言うものの、茅刈りは結構な肉体労働です。ましてや、職人によるケアが一般的ではないまま高齢化が進むと、やはり屋根の維持は難しくなってきて、徐々にトタンが被せられてもいるようです。
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丁度トタンを被せるための下地が組まれた屋根がありました。
トタン板と茅葺き屋根のあいだには隙間があることが判ります。この隙間があるので、トタンを被せても茅屋根が蒸れたりすることはありませんが、あまり隙間が大きいとオリジナルの屋根の面影を失ってしまうことになります。

同じ入母屋の茅葺きでも在原の屋根は、美山の屋根とも神戸の屋根とも異なります。
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ミノコの無い直線的なケラバ、小さめのハフ、屋根勾配より緩やかな低い棟、など。

しかし、プレスされた瓦型のトタンで包まれると、そのような個性は失われてしまいます。
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在原には庇の無い葺き下しの茅葺き屋根が多いのも特徴です。
僕は茅葺き屋根に庇が付けられるようになったことは、ひょっとするとトタンを被せられることと同じくらい大きな改造だったかも知れないと考えています。
「囲炉裏を焚かなくなったから、茅葺きが長持ちしなくなった」という説が一般的ですが、庇が付けられたことはそれ以上に茅葺きの寿命に影響しているかも知れないからです。が、それについての話しはいずれまた改めて。