0221 葺き上げ/手針

投稿日: 8件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@等持院清漣亭

手入れの行き届いていない茅場で刈り取ったススキには、このように根元がえげつない曲がり方をしているものがあります。
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ただ、ヨシだと毎年刈り取っているヨシ原でも、このように曲がったものがちらほら混じります。
環境だけではなく遺伝子などの先天的な原因があるのかもしれません。

イギリスの茅葺き職人は、このように曲がったヨシのことを Dog Legs と呼んでいました。
犬の後ろ足みたいな曲がり方だと思いませんか?

さて、屋根に手を突っ込んで竹押さえの針金をとっていると書きましたが、具体的な方法について。
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分厚い茅の中にいきなり手を突っ込むのは大変(というより無理)なので、このような道具を使います。

「テバリ(手針)」とか「カイ(櫂)」とか呼ぶようですが、美山ではもともと使わない道具なので、ウチの現場ではまだ呼び名が安定していません。
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そのカイを屋根に差し込みます。

感触を頼りに垂木の位置を探し出し、
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90度捻って茅に隙間をつくります。

そこに手を突っ込んで垂木に針金をかけます。
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今回の現場では天井が張ってあり屋根裏に入れないので、仕方なくこのような方法をとっていますが、地域によっては日常的にこの方法を用いられる職人さん達もおられます。

捻ったカイを戻して引き抜けば、茅に開けられた隙間は塞がります。
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とはいえ一旦きれいに並べた茅を開くのがためらわれるのと、1カ所の隙間から通した針金や縄で押さえの竹を締めれば、垂木の太さの分だけ茅は割れてしまいます。
垂木の左右に分けて差した針の縄なり針金を、屋根裏に入ってもらった人にかけかえてもらえればそのようなことはおきないので、やはり僕は出来れば手針は避けたいのですが。

ちなみにカイは普通木製です。
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カイに適した板材がなかなか手に入らないので、金属製のものを色々試作して試しているところです。

手間のかかる手針を繰り返してようやく葺き上がりました。
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次は棟収めです。

0225 棟収め

投稿日: 3件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@等持院清漣亭

寄せ棟の清蓮亭は下地だと武相荘のミニチュアみたいでしたが、棟を上げれば京都の庭園にふさわしい表情となるはずです。
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茅葺き屋根の地域性がもっとも顕著に現れるのはやはり棟です。

昨年たくさん積んだ関東の屋根は、どれも断面が半円のカマボコ型でしたが、関西の茅葺き屋根の棟は断面が三角になります。
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棟は一番最後の押さえ竹から縄(現在は多く針金ですが)を取って固めます。一度に高く積み上げると固まらないので何回かに分けて固めるのですが、その際に関西では押さえ竹から針金を取るのは1回目だけで、2回目は1回目に固めた針金から、3回目は2回目の針金からと、上に上にと鏡餅のように積み上げていきます。

最後の押さえ竹から屋根表面までのギャップを埋めるために、半分に切ったススキの穂先の方を、棟の根元に段が付くようにして並べて止めます。
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両端には並べたススキがこぼれないように、杉皮でススキを巻いたものを固定しておきます。

雨養生に杉皮を被せて竹で押さえます。
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竹を押さえる縄(今回は針金ですが)は杉皮を割って棟の中から取らなければなりませんが、その位置は次の工程で棟飾りが乗る位置に揃えておきます。

茅束を杉皮で巻いた棟飾りは単なる飾りではなく、杉皮を押さえた竹を縫い止める縄を、雨から養生する働きがあるので「針目覆い」と呼ぶ地方もあります。
美山では捻りなく「マキワラ」と呼んでいますが。
針金だと雨が伝って漏る心配もあまりないので、単なる飾りにしてしまってもよいのですが、せっかくなのでマキワラが隠してくれる位置で、押さえ竹を止める針金を取っておきます。
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杉皮の端を揃えてはみ出した茅を切り揃えれば棟は完成です。

0301 刈込み/竣工

投稿日: 6件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@等持院清漣亭

棟を収めたら仕上げの刈込みに入ります。
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足場の丸太を外しながら、屋根の上から下へと鋏を入れて仕上げて行き、軒まで来たらまず軒の裏を刈り落とします。

それから軒の厚みが揃うように屋根の上側も刈り揃えて、軒の水切りが決まります。
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お寺からの要望で、棟から軒にカラス除けのテグスを張り巡らすことになりました。
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ただ、カラスが本気で屋根に止まろうと思えば、たとえかやぶき音楽堂のようなステンレスワイヤー を張っていても止まるでしょう。

まあ、カラスがどんな動機で「本気になって止まろう」と思うのか、カラスの気持ちが判らないことには、なかなか効果的な対処法を見付けるのは難しそうです。
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どなたかカラスの茅葺きへの興味の持ち方について、観察してみようと思われましたらぜひご連絡下さい。

ともかく屋根の葺き替えは完成です。
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足場の解体は今回は元請けさんの仕事なのですが、足場の上の掃除が終わったところで飛散防止ネットを外させてもらいました。

もともと衣笠山を借景として建てられた清蓮亭でしたが、現在では背後に立命館大学の校舎が建っています。
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校舎を隠すために竹や高木を密に植えてあるので、茶室の周りだけ混み合ってバランスが悪いように思われるのが惜しまれます。

もっとも、山が無くなった訳ではありませんし、庭園は六百年の歴史を誇るそうですから、これからも新しい歴史を重ねて守って行けば、六百年後までにはまた往事の眺めを取り戻していることでしょう。