0524 葺き上げ工程

投稿日: カテゴリー: 茅葺き現場日誌@鎌倉覚園寺

 茅葺きの基本、まず両角をつくって屋根の角度と一工程で積み上がる高さを決めてから、茅を並べ始めます。
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茅屋根の厚さは材料を適切な勾配で無理なく並べると、普通は自ずと決まって来るものです。しかし、覚園寺の場合は巨大な軒を付けたために、通常ススキで葺くよりもかなり分厚くなっています。そのままでは奥が深い分だけ茅が寝すぎて、雨水が屋根の中に伝ってしまう逆勾配になってしまいますから、屋根めくりの際に取っておいた古茅を奥の方に充分敷き込んで茅が適切な角度まで起きるように調整してやります。

曽爾高原の茅は5尺〆の量が一束にまとめられているため、一つの束の中に長めのものや短めのなど色々な茅が入っています。
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短めのものを下に、長めのものを上にして2層に茅を並べます。工業製品ではありませんから茅はある程度曲がっているのが普通ですが(たまに許し難い程曲がっているものもありますが)、曲がりを読んで隙間が空かないように上手く並べてやります。

覚園寺の軒は1m近くありますが、ススキを材料として葺くのに適当な厚さは40〜50㎝くらいなので、棟まで軒の厚みのままで葺き上がると莫大な量の茅が無駄に必要になってしまいますので、茅屋根の厚みは軒に向けて徐々に薄くなっていくようにしておきます。
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結果として屋根表面の勾配は下地よりも緩い勾配となります。緩い勾配の屋根では一工程の始めに並べた茅の先端から最後に押さえる竹までが遠くなり、押さえが効きにくくなるため、半分の厚みまで茅を並べたところで一度軽く押さえておきます。

ワラ縄を端から端までピンと張って、1尺おきくらいにシュロ縄で一つ下の押さえ竹に綴じます。縄を使う事でさらにこの上に並べる茅ともよく馴染み、屋根の表面に隙間が口を開けたりする事もありません。
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半分並べたところでさらに奥に古茅を敷き並べます。「捨て茅」とか「のべ茅」と呼びます。捨て茅は適宜行い材料の茅が常に適切な勾配を保つように気を遣います。
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縄で押さえた上にもさらに茅を並べて角の両角の高さに合うように積み上げます。角度を付けて置く茅はどうしてもずれて落ちてくるので、角の勾配に合わせて叩き揃えたときに高さが揃うように、計算しながら並べる量を決めます。
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茅は寝かせすぎると逆漏りしますが、起こしすぎても屋根表面が粗くなり雨漏りの遠因になります。

最後に長く太めで丈夫な「取って置き」の茅を並べます。
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つづく

0521 屋根は捗らず、鎌倉の話

投稿日: 2件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@鎌倉覚園寺

あいかわらずすっきりしない天気が続いています。
養生シートを上げたり下げたり・・・まるで、それが仕事のようになってしまっています。
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茅葺き職人に愛用者の多い昔風の「縫い付け」の地下足袋は、足裏の感覚が良く高所の丸太の上での作業には最適なのですが、濡れたシートの上を歩いただけで水が滲みてしまいます。一度濡れてしまうとなかなか乾かないのに。
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ところで、鎌倉の町を歩いて目につくのが、大正昭和初期に建てられた木造住宅。いわゆる近代和風と呼ばれる範疇に入るのでしょうか? 繊細な表情を纏いながら、しっかりと骨太に組まれた強さも醸し出していて、まさに「端正」と呼びたくなるたてもの達です。
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鎌倉は関東大震災による津波で壊滅的な被害を受けたそうで、その後街が再建されたことと関係しているのでしょうが、日本で大工さんが一番良い仕事をすることができたと言われる時代の、木造住宅のストックが豊富です。

旧華族のお屋敷とかはもちろんですが、町中の小さな住宅などでも、いかにも確かな仕事がなされたという跡が感じられます。
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町を歩いていると、そんなたてものが今でも普通に住む道具として、大切に使われている事が感じられてくるので、散歩をするだけでとても幸せな気持ちになれる町です。
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0519 曽爾高原の茅

投稿日: 4件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@鎌倉覚園寺

覚園寺の屋根に葺く茅は、全てスミタさんが奈良の曽爾高原で調達されてきたススキです。
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歴史ある茅場の例に漏れず、細くて丈夫そうな茅です。これを切断したりせずに長いままで使います。

押さえの竹のすぐ下にはしっかりと押さえられるように、やや太く長く丈夫な茅を並べます。
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そのための茅はスミタさんが「特別に」注文して刈ってもらっているそうです。
おそらく、なだらかな起伏のある高原の中の、やや谷や窪地になった部分で、他より地味の肥えたところに生える茅なのでしょう。

茅の中には茅場に生えるたくさんの野花がドライフラワーとなって混じっています。
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アキノキリンソウも綿毛となる前の、かわいらしい花のままで束ねられています。
曽爾高原は標高が高く雪が早いので、茅刈りも比較的早い時期に行われるからでしょう。
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ちなみにドライになる前はこんな感じ。
藍那の現場でバイトしてくれた、ニシワキ君が送ってくれました。六甲山系東お多福山でのスケッチだそうです。

刈るのが早いためか、ススキはまだ葉やハカマを落とす程には枯れておらず、茅の中にはそれらが多く混じっていますので、葺いた感じはぼさぼさしたものになります。
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しかし、これをハサミで刈り込むと、目の詰まった美しく丈夫な屋根になるそうです。
僕はまだ見た事がありませんが、仕上がりが楽しみです。

ところで、今日はマイミクのichide!さんがわざわざ鎌倉を訪ねて下さいました。
仕事場を見てもらったあとに、由比ケ浜大通りを入ったところにあるラ・ジュルネというご飯屋さんで、おいしいパスタを食べつつ話に花を咲かせました。
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デザイナーというのは手の中に納まる道具から、都市を織りなす人と人の繋がりまで、社会に還元するためにより良いコトをデザインする人の事だと思っているのですが、正にそのようなデザイナーな方でした。
佐原市の水郷の再生の話など興味は尽きなかったのですが、しつこく降り続ける驟雨と鎌倉駅のやたら早い終電に急かされて話を切り上げざるを得ませんでした。

その土砂降りの中を駅まで向かおうとしたところ、何と居合わせたお客さんの一人がくるまでわざわざ送って下さいました。行きずりの人の親切は本当に嬉しいものです。ありがとうございました。
また、鎌倉が好きになりました。

0517 鎌倉の石のこととか

投稿日: 2件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@鎌倉覚園寺

鎌倉に戻って来ました。
相変わらず湿っぽい。そして、当然のように2回目のめくりは終わっています。手伝えなくてスミマセンでした。
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そろそろ、葺き上げも調子が出て来ていて、茅屋根も地面から見えるくらいのところまでは葺けて来ました。
屋根のかたちが寄せ棟なので、仕事が進むにつれて確実に小さくなって行き、はかどるであろうことが励みになります。
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ところで、鎌倉のあちらこちらで使われて風景をつくっている石は、0511にichide!さんが指摘して下さった通り多くが大谷石でした。覚園寺に入っている造園屋さんが教えて下さいました。
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石垣などに使われて街並に彩りを添える建築石材は、産地によって流通していた時期と場所がある程度特定されるので、その街の経歴を語ってくれることが多くあります。大谷石は近代和風住宅の豊富な鎌倉の街と、どのようなつながりがあるのか興味が湧いて来ます。鎌倉の地場の石である鎌倉石は、もう少し古いお屋敷や寺院などに多く使われているようです。
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左が大谷石、右の茶色の濃いものが鎌倉石だそうです。

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これが大谷石。
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これが多分、鎌倉石。
やはりちょっと雰囲気が違いますね
sh@

060515 初夏

投稿日: カテゴリー: 里山

屋根めくりの始まった鎌倉を後にして、関西へ戻って来てしまいました。
自宅と藍那の茅倉庫まわりの草刈りをするため、その他諸々の用事のためで予定通りなのですが、タイミングがタイミングなだけに少々後ろめたいです。1回目のめくりもやっていないし。

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藍那の里山は初夏の装い。
林中から途切れなく聞こえてくる鳥の声。谷筋を吹き抜ける風。満開のレンゲ、ハハコグサ。
気持ちよすぎて、刈り払い機のエンジンをかけるのが憚られます。

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刈り取った草は一晩くすべて灰にして、畑の肥料に活用します。
火の番とお月見を兼ねて、夜の森で過ごします。

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ここは茅刈りを始めてまだ2年目ですが、草刈りをすると昨年よりも確実に植物の種類が増えている事を実感します。ワラビもススキ野原でよく採れます。今年は遅すぎましたけれど。

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草刈りをすませた茅場は、ススキの株がぽこぽこと個性的な風景をつくります。
手入れされた里山は人の気配が漂って良い感じ。
sh@