060317 箱棟

投稿日: カテゴリー: 屋根からの眺め

箱棟(はこむね)ってご存知ですか?
棟の部分が箱を被せたように、大工仕事であつらえてある茅葺き屋根です。ふつう瓦が葺いてあって、茅屋根の葺き替えの際にはいちいち解体しません。
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傷みやすい棟の部分を補強して、一見合理的なようにも思えるのですが、果たしてどうでしょうか。
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茅葺き屋根は、並べた茅を押さえたところを隠すように、次の材料を置くのが基本です。地方によって様々に工夫されている棟収めもまた然り。
ところが箱棟の場合は、最初から隠すふたが用意されているところへ、茅を葺き詰めていかなければなりません。そうすると、最後のひと針分の茅をいかにして押さえるのか?

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この隙間をどう埋めましょうか?茅を詰め込んだだけでは、どんなに固く詰めたところで、やがて屋根全体が乾燥して落ち着いてくるに従って、ゆるんで抜けてしまいます(箱棟によっては、茅を思い切り詰め込んだら壊れてしまうものもあるし)。針金でかきつけたりぎりぎりのところで押さえたら、押さえるところが屋根表面に近すぎて、屋根の中に水が廻る原因になりかねません。

実際にはそうならないように何とかしている訳ですけれど、手間ひまかかるほどには長持ちということも無いし、下手するとかえって頻繁な補修が必要になりかねません。
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本当に苦労しますよ。
sh@

060318 箱棟/大和棟

投稿日: カテゴリー: 屋根からの眺め

箱棟の家を反対から見ると、こんな感じになっています。
京都南部から奈良にかけてよく見られる形式で、「大和棟」なんて呼ばれたりしていますね。
このお宅は片側入母屋ですが、両方切妻にしているところも多くあります。
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大和棟も「傷みやすい隅の部分を補強して、台所の上から茅屋根を遠ざけ火災にも備える、理にかなった新しい茅葺きのデザイン」と評されるのですが・・・
箱棟ほどには茅を葺き替えるときに頭を悩まされることはありませんが、瓦葺きにあるまじき勾配で葺かれた夘建(茅屋根の端に立てられた壁)の瓦が結構傷んでいるので、瓦屋さんを呼ばないといけなくなります。また、この形態だと構造的な屋根の強度にも、影響を及ぼしているでしょう。

箱棟も大和棟も、あいな里山公園の交流民家と同じようなかたちの屋根に、改造を施して生まれた比較的新しい意匠です。茅屋根として葺き替えを前提に考えると、少々無理が生じているようにも思えるのですが、思うに、これらの意匠は葺き替えの際の古茅が、農業経営の中であまり重宝がられることが無くなった時期に生まれたのではないでしょうか。

肥料として古茅が必要でないのならば、茅葺き屋根は可能な限り丈夫に葺いて、葺き替えスパンを長くした方が良いということになります。場合によっては次の葺き替えの際の段取りの悪さに目をつぶってでも。
もし、そうならば、箱棟や大和棟を産み出した動機は、トタン巻きのカンヅメ屋根に踏み切るのとかなり近いものだったと思うのですが・・・

茅葺き(に限らないけれど)民家は、つくづく時代に合わせて柔軟に姿を変えていくものなんですねえ。その姿を美しいと感じるのも、長い長い年月をかけたトライアンドエラーの成果だからなのでしょう。
もっとも、今我々が目にしている中にも、エラーが混じっていないという保証はありませんけれど。
sh@

060319 箱棟/大和棟/破風

投稿日: カテゴリー: 屋根からの眺め

箱棟の大和棟には「養蚕のために2階の通気窓が必要」というような、切実な機能上の訴求があった訳ではありません。採用することによるメリットとデメリットを考えてみると、結構微妙なバランスであるにもかかわらず、その地域を代表する意匠となるまでに普及している要因としては、結局「格好良い」からではないかと思うのです。
カッコイイかどうかというのは主観の話になってしまいますが、モノの要素としては重要な事柄でしょう。僕は多少機能面に不満があっても、デザインが気に入っている道具は案外愛せます。が、その逆はなかなか難しい。

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さて、関西は茅葺きといえば入母屋造りが殆どで、美山町もその例外ではありません。けれども,美山周辺の入母屋の茅葺き屋根は、民家としては例外的なほど大きな破風(ハフ:三角の煙出し)を設けています。
風破を設けて入母屋造りにすること自体は単なる装飾ではありません。排気効率を高めるだけではなく、妻側だけ傷んだときに棟を障らずにその面だけを葺き替えることができたり、色々と便利なこともあります。ですが、破風はとにかく付いていれば良いのであって、大きくしたところであまり良いことはないばかりか、風に対して弱くなるし、雪が屋根裏に吹き込んできたり、動物が入り込みやすくなったり、何かと悪いことばかり増えてしまいます。

それでも、美山町の伝統的建造物群保存地区に行けば、大きな破風を上げた家ばかりずらっと並んでいるのは、やはり、「大きい方がカッコイイ」と皆が思ったからではないのかなあ。
sh@

060321 なごり茅刈り

投稿日: カテゴリー: 屋根からの眺め茅刈り里山

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この場所は近いうちに造成されるそうなので、茅場を育てるというモチベーションにはつながらないのですが、過去何年か続けて茅刈りが行われていて、とても良い茅が生えているのがもったいないので、刈り取らせてもらいました。
この時期になると、ススキは葉もハカマもすっかり落として、棹だけになっています。この方が茅葺きの材料としては葺きやすい上に丈夫で適していますから、無雪地の茅刈りは春先にするのが良いように思います。

茅刈りに続いて茅倉庫まわりを片付けて、作業のあとはお弁当広げて。
うららかな春の日差しに恵まれて、絶好のピクニック日和でした。
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あたりまえのように演奏会が始まるし。
sh@

060324 トタンも「茅」のうち

投稿日: 10件のコメントカテゴリー: トタン考屋根からの眺め

茅葺き屋根は、そこに暮らす人にとって最も合理的に入手できる材料で葺かれます。

山がちなところではススキや笹で、水辺近くではヨシやガマで、農地が発達していれば小麦わらや稲わらで、南の島ではヤシやバナナの葉で。

これは奈良の稲わら葺き。奈良では山地ではススキ葺きが主流ですが、国中(くんなか)と呼ばれる農地の整備された奈良盆地では、稲わら葺きが多かったそうです。
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ただし、最も合理的な材料は、社会背景の変化に伴って変遷するものです。
ススキで葺かれていた屋根が、周辺の開墾が進んで茅場が遠くなり畑が増えれば、小麦わらに葺き替えられることもあったことでしょう。

ならば、茅葺きが農の暮らしと切り離され、工業製品を購入するのが最も合理的だった時代においては、トタンによって葺かれるのが自然な姿だったとも言えます。

そして今、自然と共生する暮らしがもとめられるようになってきたのならば、またトタンを剥がして茅に葺き替えれば良いだけの話だと思います。
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トタンを剥がせば中にはちゃんと茅葺き屋根が入っているのですから。

次はどんな「茅」で葺くのか?
それは、現代の日本でどのようにして茅葺きとともに暮らすのか、そのアイディア次第ということです。
sh@