0505 軒付けました

投稿日: カテゴリー: 茅葺き現場日誌@鎌倉覚園寺

ようやく、巨大な軒を付け終わりました。

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「軒がついたら半分済んだようなもの」とは、気分の上での話ですが、今回は本当に工程的にもそんな感じになりました。
やれやれ。

今日は端午の節句で、お寺から粽をいただきました。
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父が信濃人なせいなのか、実家では子供の日といえば柏餅でしたが、京都の美山へ行ってからは、各家庭でつくられたちまきのお裾分けに預かる事も多くて、それが普通になりました。
ちなみに美山では粽と言えば米粉と白砂糖でつくり、笹の葉を開くと真っ白なそれがあらわれるのですが、鎌倉でよばれた粽は黒に近い濃緑で驚きました。こういうものなのかな?
sh@

0511 雨につき

投稿日: 3件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@鎌倉覚園寺

屋根屋の仕事は雨の日が日曜日です。

鎌倉に来てからじめじめとした日は多かったものの、まとまった雨はあまり降らなかったので何となく濡れながらも仕事を続けてきましたが、今日は昼からしっかり降り出したので休みとなりました。

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昼間に鎌倉を散歩できたのは初めてです。

異邦人が勝手に鎌倉らしさを感じているもののひとつに、名前も知りませんけれどもこの石材があります。
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切り通しや「やぐら」の掘られている谷戸の崖も、稲村ケ崎の海蝕崖ものっぺりとした砂岩の壁で、鎌倉には石というものが転がっていませんが、この石材もそんな砂岩の固いところを切り出してきたもののように見えます。実際のところはまだ存じませんが。

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この石で低く積まれた石垣の上に生け垣、という組み合わせは、いかにも「鎌倉のお屋敷」らしく思えます。

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見た感じ加工しやすそうで、他にも舗石やブロックの代わりに塀に積まれたりして、鎌倉の街のあちこちで使われています。

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エイジングによる効果が出やすいのも、柔らかそうな砂岩ならではですね。

ところで、昨日も少し触れましたが、お施主さんが暮らしたり、宗教施設として現役で使われている建物の、屋根をめくらなければ仕事のできない屋根屋ですから、雨対策が信頼できなければ、今日のような雨降りに安心して休むこともままなりません。

現在はシートがあるからそれでも楽なのですけれども、それまでは屋根をめくった穴を塞ぐためには、茅を仮に薄く並べるくらいしかできなかったそうです。

タナカさんの若い頃の話として、自転車を持っていない自分だけがお施主さんの家に泊まり込み、親方や兄弟子は通いで仕事をしていたところ、屋根めくりをした日の夜に雨が降り出して来たため、ひとりで何とか雨養生をしなければならなくなったものの、大きな屋根に茅を仮に並べ終わる頃には夜が明けてしまったしまったそうです。
しかも、夜が明けると雨は降り止み、仕事に来た親方や兄弟子と共に、あたりまえのように徹夜で仕事をせざるを得なかったとか。
笑い話としてされますが、怖い話です。
sh@

0510 屋根めくり(2回目)

投稿日: カテゴリー: 茅葺き現場日誌@鎌倉覚園寺

軒から2針分葺き上がったので、上の方の古屋根をめくり始めます。
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今回は藍那のときのような素屋根が現場にかかっていませんから、屋根の葺き替えには雨対策が必要です。
古屋根を一度に全部めくってしまうと、養生のためにとてもたくさんのビニールシートが必要になりますし、雨漏りの危険も大きくなります。
特に軒の部分は軒裏から吹き上げてくる風をはらんで、そこからシートがめくれたり破れたりしやすいので、まず、軒付けに邪魔にならない程度に全体の3分の1くらいの屋根を解体するにとどめて作業して来ました。
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こうすれば、雨養生のためのシートは小さくて済み、その分風をはらむ恐れも少なくなります。
新しい軒がついて、軒先から屋根裏に風が入り込む心配がなくなってから、上の方の屋根をめくります。このとき雨養生に使っていたシートが、新しい屋根に古屋根の苔や泥が付くのを防ぎます。
残り3分の2の古屋根も一度にめくらずに、仕上がりの寸法が予想しやすくなるように、棟の部分はまだ残しておきます。何人もの職人が集まって、互いに見えない裏と表に別れて葺いていますから、このような気遣いが最後の仕上がりに利いてくると思います。

シートが無かった昔は、1日に葺ける分だけ毎日少しずつめくっては葺いていたり、白川郷で行われているように1日で葺いてしまう事を最優先に作業したり、色々と工夫(というか苦労)していたそうです。
sh@

0517 鎌倉の石のこととか

投稿日: 2件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@鎌倉覚園寺

鎌倉に戻って来ました。
相変わらず湿っぽい。そして、当然のように2回目のめくりは終わっています。手伝えなくてスミマセンでした。
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そろそろ、葺き上げも調子が出て来ていて、茅屋根も地面から見えるくらいのところまでは葺けて来ました。
屋根のかたちが寄せ棟なので、仕事が進むにつれて確実に小さくなって行き、はかどるであろうことが励みになります。
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ところで、鎌倉のあちらこちらで使われて風景をつくっている石は、0511にichide!さんが指摘して下さった通り多くが大谷石でした。覚園寺に入っている造園屋さんが教えて下さいました。
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石垣などに使われて街並に彩りを添える建築石材は、産地によって流通していた時期と場所がある程度特定されるので、その街の経歴を語ってくれることが多くあります。大谷石は近代和風住宅の豊富な鎌倉の街と、どのようなつながりがあるのか興味が湧いて来ます。鎌倉の地場の石である鎌倉石は、もう少し古いお屋敷や寺院などに多く使われているようです。
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左が大谷石、右の茶色の濃いものが鎌倉石だそうです。

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これが大谷石。
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これが多分、鎌倉石。
やはりちょっと雰囲気が違いますね
sh@

0519 曽爾高原の茅

投稿日: 4件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@鎌倉覚園寺

覚園寺の屋根に葺く茅は、全てスミタさんが奈良の曽爾高原で調達されてきたススキです。
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歴史ある茅場の例に漏れず、細くて丈夫そうな茅です。これを切断したりせずに長いままで使います。

押さえの竹のすぐ下にはしっかりと押さえられるように、やや太く長く丈夫な茅を並べます。
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そのための茅はスミタさんが「特別に」注文して刈ってもらっているそうです。
おそらく、なだらかな起伏のある高原の中の、やや谷や窪地になった部分で、他より地味の肥えたところに生える茅なのでしょう。

茅の中には茅場に生えるたくさんの野花がドライフラワーとなって混じっています。
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アキノキリンソウも綿毛となる前の、かわいらしい花のままで束ねられています。
曽爾高原は標高が高く雪が早いので、茅刈りも比較的早い時期に行われるからでしょう。
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ちなみにドライになる前はこんな感じ。
藍那の現場でバイトしてくれた、ニシワキ君が送ってくれました。六甲山系東お多福山でのスケッチだそうです。

刈るのが早いためか、ススキはまだ葉やハカマを落とす程には枯れておらず、茅の中にはそれらが多く混じっていますので、葺いた感じはぼさぼさしたものになります。
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しかし、これをハサミで刈り込むと、目の詰まった美しく丈夫な屋根になるそうです。
僕はまだ見た事がありませんが、仕上がりが楽しみです。

ところで、今日はマイミクのichide!さんがわざわざ鎌倉を訪ねて下さいました。
仕事場を見てもらったあとに、由比ケ浜大通りを入ったところにあるラ・ジュルネというご飯屋さんで、おいしいパスタを食べつつ話に花を咲かせました。
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デザイナーというのは手の中に納まる道具から、都市を織りなす人と人の繋がりまで、社会に還元するためにより良いコトをデザインする人の事だと思っているのですが、正にそのようなデザイナーな方でした。
佐原市の水郷の再生の話など興味は尽きなかったのですが、しつこく降り続ける驟雨と鎌倉駅のやたら早い終電に急かされて話を切り上げざるを得ませんでした。

その土砂降りの中を駅まで向かおうとしたところ、何と居合わせたお客さんの一人がくるまでわざわざ送って下さいました。行きずりの人の親切は本当に嬉しいものです。ありがとうございました。
また、鎌倉が好きになりました。