2007年04月03日

●0403 天橋立のたもとで軒付け

天橋立を眼前に望む丹後郷土資料館に移築されている、「旧永島家住宅」の屋根を葺き替えに来ました。
丹後の茅葺き民家の特徴でもあるとても高い軒は、養蚕が盛んだった時代に屋根裏を蚕室として利用するために、2階にも窓を設けるために施された改造です。
0403P1070584.jpg
養蚕のために茅葺き民家には、日本各地でそれぞれ工夫を凝らした改造が施され、今日私達に多様な茅葺き屋根の姿を見せてくれている、大きな要因のひとつとなっています。
それにしても多雪地帯の丹後で、土塗りの大きな妻壁を庇も付けずに曝しているのは、建物の耐久性に問題を生じないのかいつも心配になりますが・・・このスタイルが丹後の西側では普通に見られます。

カラスが茅を抜くと、屋根の表面にこんな風に茅が散らばってしまいます。
加えてこの屋根の場合、破風(ハフ)との境に何者かが潜り込んで穿った穴が開いていますね。
穴を開ける時に茅を掻き出したな・・・
0403P1070589.jpg
ネコとかイタチとかムササビとかでしょうが、囲炉裏やクドで火を使っていた頃には、屋根裏は煙たくてわざわざ潜り込みたくなるような空間ではなかったはずです。
「囲炉裏を使わないから屋根が傷む」という説は、通説としてまかり通っているほど僕としては納得してはいないのですが、「囲炉裏を使わないから屋根裏が快適→動物が入り込んで天井裏に棲みつく→動物が入らないように隙間を塞ぐ→屋根裏の換気が悪くなり屋根が蒸れて傷む」ということはあると思います。

外観はそれほど傷んではいなかったのですが、解体してみると再利用できる茅はほとんどありませんでした。
前回の葺き替えに用意されたススキの品質が、もともとあまり優れていたとは言えないものだったようです。
0403P1070592.jpg
下地の竹も軒並み虫食いのために交換が必要で、刈り旬を待たずに慌てて材料を用意しなければならなかった、前回の屋根葺きの際の苦労が偲ばれます。
茅葺きの葺き替えが人の暮らしの中にあった頃には起きなかったことでしょうが、公共事業の予算の執行には、茅葺きのリズムはのんびりし過ぎていて付き合ってもらえないようです。
そんな訳で今時の茅葺き職人には、常時材料のストックが欠かせなくなってしまいました。

下地を交換して軒を付け始めます。
0403P1070594.jpg
最初に屋根下地に固めの材料を薄くかきつけてこれが軒裏の一番内側のラインとなります。

現場の目の前には横一文字に伸びる天橋立。
晴れた日には広々とした風景に気持ちが和みます。
0403P1070601.jpg
うらうらとした春の日差しに、のんびりし過ぎて眠くなってしまうのは困りものですが。