0417 茅のはなし -メガヤ-

投稿日: 2件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@丹後旧永島家

今回の現場で解体した古屋根のうち、数少ない再利用可能な茅の中に、美山で「メガヤ」と呼んでいるススキとは違う茅が結構な割合を占めていました。
所謂「カリヤス」の一種で、白川郷で「コガヤ」と呼ばれているものに近い印象ですが、何分カリヤスの仲間は種類が多いのと、僕自身生えているものを見たことが無いので、同定に関しては自信がありません。
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しかし、茅材として非常に優れていることは確かです。
細くしなやかなので均等に密に葺くことが容易で、葉は棹の途中から細かいものが多数出ているので、穂先が大きくなりすぎることも抜けることも無く、棹の中は中空となっているため水はけが良く乾きも早いのです。

素材の感じとしては小麦ワラに似ていますが、もっと肉厚で耐久性も遥かに勝ります。
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これだけ優れた素材ですから、かつては美山でも盛んに使われていました。
しかし、生育するのがある程度標高のある山の尾根筋だけなため、そのような場所の茅場は戦後の拡大造林の際に真っ先に杉が植林されましたし、或いは林道もない山奥まで茅刈りに行くことが大変なため、放置され森林に遷移してしまっていて、既にメガヤの茅場は美山では完全に失われてしまっています。

そのため、目にするのは常に古屋根を解体した際の古茅ということになりますが、古茅となっても2回3回と繰り返し使われることも珍しくありません。
今回のメガヤも煤け具合から察するに、前回の葺き替えに際して用意された時点で、どこかの解体した家からもらって来たものなのか古茅だったようです。
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茅刈りが行われなくなってから久しい時期に、公共事業のために慌てて集められた新しい茅が、軒並み傷んで再利用できないのに、さらに古い時代に伝統的に刈り続けられて来た山の茅場で刈られたメガヤが、全く問題なく新しい屋根の材料として再利用できる。
しかし、茅刈りを止めたメガヤの茅場は、瞬く間に姿を消して既に痕跡すら判らない・・・

話しは変わりますが、日曜日には溝日役、道日役という地元のムラの共同作業に参加して来ました。
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田起こしに備えて、冬のあいだ水を止めていた農業用水路に溜まった、落ち葉や土砂を取り除くのと、雪が消えた農道にバラスを蒔いて、毎年一回路面を整える作業です。

僕は農家ではありませんが、農業のために行われるこのような作業の成果が、積み重なって僕等のムラの美しい景観となっているわけですから、参加することにためらいはありません。
茅場もまた、当たり前に行われて来た茅刈りという営みが、蓄積した風景だった訳ですから・・・
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今でもまだ人が積極的に関わっている部分の残る自然だからでしょうか。ムラの農道に咲くタンポポは、どれも在来種のカンサイタンポポでした。
いつか山の上の茅場にも人の手がかけられる日がくれば、古茅ではなく地面から生えたメガヤの姿を見ることが出来ることでしょう。

0414 茅のはなし - オギ -

投稿日: 4件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@丹後旧永島家

破風(ハフ、入母屋の煙出)の下端、屋根の肩のところが近づいて来ました。
破風の下端を結ぶラインを、美山では「オリモト」とか「アリゴシ」と呼んでいます。
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わざわざ名前がついているのは葺き替えのタイミング計る際に、このラインから上と下で屋根を2分して考えるからです。
下半分は上半分よりも屋根を流れる雨水の量が多いため、当然ながら早めに傷んできます。屋根を効率よく維持して行くためには、傷んだ部分だけを順番に葺き替えられるようにしておく必要があります。

最近ではさらに、傷みやすい下半分にススキより丈夫なヨシを混ぜて葺いています。
ススキに関しては肥料や飼料としての需要が無くなった現在、茅葺きの葺き替えのためだけに無理をしてまで必要な量を確保するよりも、まずは出来る範囲での良質な茅場の維持管理に努めます。一方で必要性は認められながらも需要が無く滞っている、河川湖沼のヨシ原の刈り取りを茅葺きのために進めることで、茅葺きを介して地域を超えた自然と共生する文化の盛り上がりを期待しているのです。
そのために、両者をバランスよく適材適所に使い分けるように努めています。
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ただし、今回持ち込んだ材料は、実は正確にはヨシではなく「オギ」です。

産地の宇治川河川敷のヨシ屋さんは、ヨシのことを「メンヨシ(女葭?)」オギのことを「オンヨシ(男葭?)」と呼ばれています。
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ヨシ原の中でヨシとは別の群落を作って棲み分けているのですが、オトコヨシと呼ばれるだけあってヨシよりも堅く、表面には光沢があり水をはじきます。

そのため水濡れに対して耐久性を発揮する一方で、材料としては親水性に欠ける分だけ表面張力が小さく、緩い勾配で屋根に葺くと雨水を通過させてしまいやすいため、使用に際しては注意を必要とする材料でもあります。
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そこで、様々な長さに切断したものを用意して、それらを何層にも重ね合わせることで最適な材料勾配を保つようにします。

茅葺き屋根はその建物の建つ土地における人の暮らしの中で、最も身近で合理的に入手できる材料で葺かれてきました。
ならば、生まれた村で一生を過ごす人が過半だった時代と異なり、現代の私達の生活範囲に照らしてみて、関西の屋根を葺く材料として地元の材料に加えて、宇治川や淀川、琵琶湖のヨシが混ぜて使われることは、とりたてて特異なことではないと考えています。
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もちろん、いずれは茅葺きの需要がさらに増えて、宇治川のヨシは京都南部で消費され、丹後の屋根を葺くために円山川河口や久美浜湾のヨシ原、世良高原のススキ原が再興されていくことを、目指しての上でのことです。

0412 古屋根解体/箱棟詳細

投稿日: 7件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@丹後旧永島家

天橋立を眺めながら、朝凪の海岸に沿って遊歩道を散歩するのが日課になりつつあります。
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とてもたくさんの種類の鳥を目にすることが出来ます。海辺の鳥達は普段美山の山奥で見ているのとは違っていて新鮮です。

軒から何段か葺き上がって安定したので、残る上半分の古屋根の茅もめくります。
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下半分と同様に、再利用できそうな茅は余り多くありません。

片側の茅が全てめくられて、後は葺き上がって行くだけとなりました。
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旧永島家住宅は箱棟なので、棟の解体の必要が無い分手間がかかりません。
変な箱棟だと、葺いて行くのにかえって手間がかかることもありますが。

下地の竹はやはり100%交換が必要でした。
旬の悪い時期に伐った竹は、どんなに乾燥させても煤竹にしても、虫が入ってだめになります。
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ちょっと判りにくいかもしれませんが、屋根下地の構造が同じ入母屋でも美山とは全く異なります。
放射状に垂木が流される美山と異なり基本的に垂木は平行です。
寄せ棟に破風(ハフ=煙出)の部分を乗っけて入母屋にしている美山と、切り妻に風破の下を継ぎ足して入母屋にしている丹後。

箱棟に近寄って覗き込んでみると、驚くほど大きな部材で丈夫に組まれていることが判ります。
最後の葺き収まりではこの箱棟の下に、茅を詰め込めるだけ詰め込みます。箱棟の造りが華奢で詰める際に壊れないように気を遣うようでは、詰めた茅が後々緩んで抜けて来てしまいますので。
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また、部材の下端が斜めに切り取られていることにも注目して下さい。
茅は雨仕舞いのために常に外に向かって傾斜していなければなりません。下端が水平だと奥側の角に茅が詰まるので、箱棟と茅のあいだに隙間が残ってしまうのです。

さらに箱棟の内部の様子です。
箱棟の棟桁は茅葺きの屋根下地の棟木から束を立てて充分に浮いており、内部には詰め込んだ茅の先を収めるだけの空間が確保されています。
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箱棟は茅葺きの棟収めの変遷の過程で生み出された形態ですが、この箱棟を設置された大工さんは茅葺きのことを良く理解されていたようです。

0410 葺き上げ

投稿日: カテゴリー: 茅葺き現場日誌@丹後旧永島家

天橋立の周りでも桜が満開となりました。
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冷え込んだ先週とは打って変わって、春爛漫の陽気が続きます。

軒の上側も無事に付け終わりました。
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水切りの位置が決まって、これを基準に屋根全体を葺いて行きます。

両端のコーナーの部分を先につけます。角付けと呼ぶ工程で屋根のかたちがここで決まりますから、腕の立つ職人が担当します。
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ヨシは滑りやすいので、滑り止めに板を立ててから並べます。

短く切ったヨシと長いヨシを何層にも積み重ねて葺いて行きます。
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長いヨシばかりだと奥の方が高くなり過ぎてヨシが次第に起き上がってしまい、押さえの竹が屋根の表面へ押し出されて来てそこから雨漏りしてしまいます。
短いヨシばかりではしっかりと固まった屋根にはなりません。

右から左へと工程が進む途中です。
様々な長さのヨシを使い分けながら積み重ねて並べ、最後に押さえとなる長いヨシを並べて、ひとつ下の押さえ竹から針金を取り足場用の丸太で挟んで仮に固定します。
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滑り止めの板を外して、屋根のかたちに叩き揃えます。
叩き揃えた時に両端のコーナーと高さが合うように見越して、あらかじめ並べるヨシの分量を調節しておきます。
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この後、仮押さえの丸太を足場にして押さえの竹を下地から縫い止めて固定します

0407 軒付け/いさざ

投稿日: 2件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@丹後旧永島家

軒付けは進んで、軒の裏側になる部分は付け終わりました。短い材料を使って下地に対して角度を稼ぎます。
これから葺いて上がって行く際に、茅を屋根に設置する角度の基準となります。
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美山の屋根も相当勾配がきついのですが、丹後の屋根の平(ひら)面はそれ以上に急角度なので、何も対策をとらずに葺いて行くと、奥の方が起きて茅を設置する際の角度が急になりすぎてしまいます。
なるべく茅が寝るように、材料や葺き方に気を遣っていく必要がありそうです。

さて、周りを海に囲まれているとはいえ山深い丹後半島には、谷川がそのまま海に注ぐような、きれいな流れの川がいくつもあります。
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旧永島家住宅の前でもそのような川が阿蘇海(宮津湾の天橋立に仕切られた部分)に注いでいて、まだ寒いのに放課後の子供達が水遊びに集まって来ますが、この時期子供の他にもそのような川のうちのひとつに集まって来るのが「イサザ」です。

「この時期に丹後に来たらイサザ食わなあかんわ」と博物館の方に薦められて、イサザ漁の漁師さんを紹介してもらいよくわらないままに買いに行きました。
買ってみて判ったのですが、イサザとは産卵のために河口に集まって来たシロウオのことでした。
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踊り食いを珍味として高級料亭で供するというイメージがあったのですが、漁師さんは一合単位でドパッと売って下さいました。

さて、それをどうするか。
ぼやぼやしているとせっかくの新鮮なシロウオが、見る間に弱って行くようです。
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一応踊り食いにも挑戦してみましたが、それで量を食べるものでもありませんし。
吸い物、卵とじ、素揚げなどなど、淡白なのに噛むほどに味の濃くなる、なかなかに後を引くお味でした。