1212 雑木林と茅葺き屋根

投稿日: カテゴリー: 茅葺き現場日誌@武相荘

今回は覚園寺ほどの巨大な軒を付ける訳ではありませんが、関東風の覗いた(水平にせり出した)軒を付けるために、やはり力竹で軒を補強します。
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表側の軒が付いたので、小間(妻側)、裏側と軒付けのために古い屋根を解体して行きます。
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こうして見ると土手にしか見えませんが、裏面の大間(広側)の屋根です。

こちらにもカエデやケヤキの若木が育ちつつありました。
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とりあえず、表面の土壌化した層を欠き落として屋根を乾かします。
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ところで茅葺きの手入れのために屋根に生えた苔を落とすべきかどうかは難しいところです。
屋根は乾いていた方が良いのは当然なのですが、屋根の表面は少しずつ分解されて減って行くので、あまり頻繁に苔を落とすとその速度を速めてしまいかねません。
また、傷みが進んだ屋根では、苔をどけるとここの屋根のように穴が開いていて、止めを刺してしまうことにもなります。

春に屋根に積もった雪が落ちる時に、一緒に落としてくれるくらいで丁度良いかもしれません。

そして、表側程ではありませんでしたが、やはりこちらにも立派なカブトムシの幼虫が。
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それにしても、大きい!
小学生の頃に飼っていましたけれど、こんなに大きかったかなあ。
建物を博物館として活用している関係でエアコンで全館暖房していますが、昔の家なので断熱材の入っていない天井から熱が逃げて、屋根裏は相当暑いようですが、それと関係あるのでしょうか。温室栽培。

ひょっとしたら、全館冷暖房は屋根の傷みとも何らかの関係があるかもしれませんね。
茅葺きの良さを活かしながら、現代的な生活にも適合させるための工夫を重ねて行かなければと思います。

武相荘の敷地内には本当にきれいな雑木林が残されています。
5,6年前に訪ねた時には、周りにもまだ他に雑木林や田んぼが見られたはずでしたが、今回来てみるとここだけが孤島のように残されていました。
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武相荘に町田中のカブトムシが集まって来てしまったのでしょうか。

1208 軒付け

投稿日: カテゴリー: 茅葺き現場日誌@武相荘

現状の屋根はススキで葺かれたものにヨシが差し茅されています。
周囲を木々に囲まれた武相荘なので、今回は雨のかかる屋根面は全て、耐久性に勝るヨシを用いて葺き替えます。
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建物に横付けできない現場では、材料を運ぶひとは大変です。ご苦労様。

古屋根の軒を解体して行くと、一番下の茅は渡した縄をU字に曲げた竹串で止めて固定したありました。
他であまり見たことのないやり方ですが、結構ちゃんと止まっていました。
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ちなみにイギリスの伝統的な茅葺きでは、U字に曲げたヘーゼルナッツの若木(ナラの若木のよう)の串で、屋根全部の茅を止めていますが、それで緩んだりする心配はありませんでした。

例によって雨養生の都合から、軒付けに必要な分だけ解体して葺き始めました。
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下地は竹の垂木にシノタケが横に渡してありました。ちょっと華奢なようにも感じますが、小屋組がそれに合わせて出来ているので問題は無さそうです。

ひとつかみずつヨシを縄でかきつます。
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軒全体を支えて軒裏の化粧ともなるので、きれいで丈夫なヨシを選んで使います。

次に屋根下地に対して茅を角度を付けて葺いて行く事が出来るように、短めでテーパーの効いた材料を並べます。
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通常なら稲ワラを使うところですが、より耐久性を持たせるためにも、古屋根の解体した材料から程度の良いススキを選別し、加工して使用しました。

その上に、ヨシの中から短めでテーパーの効いた束を選んで並べて、竹で押さえて止めます。
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これがほぼ軒の厚みになるので、厚さが揃うように足したり抜いたりして調整し、端のラインが真っすぐに揃うようにして行きます。

1206 武蔵野入り

投稿日: 5件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@武相荘

ナカノさんの「きたむら茅葺き屋根工事」をお手伝いするために、博物館として公開されている旧白州次郎/正子邸「武相荘」の葺き替えにやって来ました。
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今年最後の現場も関東です。

手入れの行き届いた雑木林に囲まれた、建物の屋根は一面の枯れ草に覆われていて、夏場にはさぞかし青々としていたことでしょう。たくさんの実生も枝を伸ばして周りの林と一体化しようとしているかのよう。
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すぐ軒際にあるシラカシではなく、親木の少し離れたカエデやケヤキの苗が多いのが不思議と言えば不思議です。

軒裏を覗くと、軒の端は乾いているのに中程が濡れています。
屋根の中に雨水が入り込んでしまっている証拠です。
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果たして幼木を引っこ抜くと巨大な穴が・・・
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では、木の根がこの穴を穿ったのかと言えば、必ずしもそうとは限りません。
普通の状態では雨水は茅葺き屋根の表面を流れるだけで染み込むことは無いので、乾いた屋根の内部に木が根を伸ばして行く事は無いはずです。実際屋根に芽を出した実生や雑草を引っこ抜くと、屋根表面の風化した部分に広く浅く根を張っている事が殆どなのです。

穴の中からは今まで見たことのないような、立派に太ったカブトムシの幼虫がごろごろ出て来ました。
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カブトムシの幼虫は乾いた屋根までせっせと食べては良質の腐葉土に変えてしまう、茅葺き屋根に取っては癌のような困った存在です。

古い屋根の断面を見ると、ススキで葺かれた屋根に後年の補修でヨシによる差し茅がされてますが、差されたヨシが丸ごと水に浸かったような状態になってしまっています。
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差し茅の際に古い屋根との取り合わせや勾配が合っていないと、このように屋根の表面ではなく中を雨水が流れてしまうことがあるようです。これでは、せっかく差した部分が屋根としての用を成していません。特に異なる素材を混ぜる時には注意が必要です。

要するに、穴があく程屋根が傷んだ原因はひとつには絞れません。
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周りを木々に囲まれた、茅葺き屋根に取ってはやや厳しい環境であることを肝に銘じて、関西の屋根屋が笑われないように、長持ちする良い屋根にしていきたいと思います。

061124 晩秋

投稿日: 2件のコメントカテゴリー: 里山

神戸に茅倉庫の片付けに行って来ました。
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それなりに艶やかな、雑木林の紅葉も終盤に差し掛かかりました。
今年はあまりにいつまでも暖かで、今さら小春日和と呼ぶのもためらいそうな日が続いていましたが、それでも季節は移ろっていたことを、里山の木や草や鳥の姿が教えてくれます。

さすがに最近では日が陰ると寒さを感じるようになって来ました。
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藍那の里山も間もなく冬を迎えます。

061122 湖北の茅葺きの里

投稿日: 7件のコメントカテゴリー: トタン考屋根からの眺め

滋賀県マキノ町の在原という茅葺きの集落を訪ねて来ました。
扇状地にある市街地から谷を遡り山へ分け入った、いわゆる隠れ里と呼ばれるような集落です。

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滋賀の茅葺きというとヨシで葺かれたものをイメージされるかもしれませんが、湖岸を離れた場所ではススキが使われるの普通で、在原の屋根もススキで葺かれています。
ヨシはとても重量があるので、船で運んで行ける場所でなければ使いづらかったのかもしれません。

ここを訪ねた目的のひとつは、サガラのターレットトラックの回収です。
ターレットトラックとは、魚市場などでトロ箱をいっぱい積んで構内を走り回ったりしている、アレです。
生来インドア派のようですが、茅運びにも活躍してくれたら良いのですが・・・
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背後の民家の屋根は、初夏にヤマダさんの山城萱葺屋根工事によって、手前の小間を葺き換えられています。
サガラはそのとき在原に泊まり込みで手伝っていました。

さらにその奥の民家は、マイミクのふくい さんがセルフビルドで廃屋を一旦基礎まで解体してから、再建中のものです。もちろん、茅葺き屋根もセルフで。すごい。
今回はお留守でしたが。

もともと在原には職人さんが入ることはあまりなく、ごく最近まで住人の方が茅を集めて自ら葺くのが普通だったようです。
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今でも雪の季節を前にして、あたりまえにススキが刈り集められ、軒下で干されています。

それは、積雪の多い土地で雪囲いとしての需要があるからかもしれません。
ビニールトタンの雪囲いに比べて茅束の雪囲いは明るさで劣るものの、断熱性能に優れてすきま風も防ぐので暖かいそうで、2つを組み合わせると具合が良いようです。
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雪囲いにするために茅を刈るので、その茅を使って屋根のメンテナンスもする。と、いうのは、茅葺きを守るために茅を刈る、というのに比べて合理的で健全な気がします。

とは言うものの、茅刈りは結構な肉体労働です。ましてや、職人によるケアが一般的ではないまま高齢化が進むと、やはり屋根の維持は難しくなってきて、徐々にトタンが被せられてもいるようです。
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丁度トタンを被せるための下地が組まれた屋根がありました。
トタン板と茅葺き屋根のあいだには隙間があることが判ります。この隙間があるので、トタンを被せても茅屋根が蒸れたりすることはありませんが、あまり隙間が大きいとオリジナルの屋根の面影を失ってしまうことになります。

同じ入母屋の茅葺きでも在原の屋根は、美山の屋根とも神戸の屋根とも異なります。
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ミノコの無い直線的なケラバ、小さめのハフ、屋根勾配より緩やかな低い棟、など。

しかし、プレスされた瓦型のトタンで包まれると、そのような個性は失われてしまいます。
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在原には庇の無い葺き下しの茅葺き屋根が多いのも特徴です。
僕は茅葺き屋根に庇が付けられるようになったことは、ひょっとするとトタンを被せられることと同じくらい大きな改造だったかも知れないと考えています。
「囲炉裏を焚かなくなったから、茅葺きが長持ちしなくなった」という説が一般的ですが、庇が付けられたことはそれ以上に茅葺きの寿命に影響しているかも知れないからです。が、それについての話しはいずれまた改めて。