0405 茅葺きの屋根裏

投稿日: 6件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@丹後旧永島家

丹後の現場に入ったばかりでしたが、冷たい雨に降られて一旦美山に退却して来ました。
夜には花寒から春の嵐へと。雹に降られると自宅のトタン小屋は寝ていられません。
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美山ではコブシが花盛り。タムシバかもしれませんが、見分けられません。
これから新緑までの一ヶ月間、山は日々移り変わる一年で最も賑やかな色彩を楽しませてくれます。けれど今年も現場泊まり込みなので、美山の春はおあずけです。

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さて、再開した現場では軒付けが順調に進んでいますが、押さえの竹を下地のレン(垂木)に縫い止める工程で少々問題が発生しました。

押さえの竹を止める縄(or針金)は、大きな屋根葺き用の縫い針を突き通して、屋根裏に入った人に取ってもらう(「針取り」と呼びます)のですが、旧永島家住宅の屋根裏は、郷土資料館に付属している収蔵庫として使われていて、収集された民具が溢れかえっているのです。
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屋根裏に入らずに縫い止める方法もあるのですが、僕としては作業効率と精度の両面から、針取りをするのが一番良いと思っているので、できることならばそれでやりたいところです。

と、いうわけで丁稚サガラには苦労してもらうこととなりました。
民具を片付けるにも文化財だけに手荒には扱えず、しかし中には触っただけで壊れそうなくらい劣化したものもあり、何とか造ったわずかな隙間に体を潜り込ませての作業です。
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茅葺き屋根の屋根裏は家の中で火を焚いていた時代には煤だらけで、大事なものをしまっておける場所ではありませんでした。しかし、毎年刈り貯めた茅を収納するには、煙たいということは乾燥して虫がつくこともないので、かえって具合が良かったのです。茅が屋根裏一杯に詰まっていても、葺き替えの際には外へ運び出されますから、それは針取りの邪魔になることもありません。

火を使わなくなったことで天井が貼られ、屋根裏が物置になったり居室に改装されたりするようになりました。
針取りがやりにくいだけならばまだ良いのですが、それが茅葺き屋根の寿命に悪い影響を与えるようなことはありはしないかと、少し気になっています。

0403 天橋立のたもとで軒付け

投稿日: 4件のコメントカテゴリー: 茅葺き現場日誌@丹後旧永島家

天橋立を眼前に望む丹後郷土資料館に移築されている、「旧永島家住宅」の屋根を葺き替えに来ました。
丹後の茅葺き民家の特徴でもあるとても高い軒は、養蚕が盛んだった時代に屋根裏を蚕室として利用するために、2階にも窓を設けるために施された改造です。
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養蚕のために茅葺き民家には、日本各地でそれぞれ工夫を凝らした改造が施され、今日私達に多様な茅葺き屋根の姿を見せてくれている、大きな要因のひとつとなっています。
それにしても多雪地帯の丹後で、土塗りの大きな妻壁を庇も付けずに曝しているのは、建物の耐久性に問題を生じないのかいつも心配になりますが・・・このスタイルが丹後の西側では普通に見られます。

カラスが茅を抜くと、屋根の表面にこんな風に茅が散らばってしまいます。
加えてこの屋根の場合、破風(ハフ)との境に何者かが潜り込んで穿った穴が開いていますね。
穴を開ける時に茅を掻き出したな・・・
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ネコとかイタチとかムササビとかでしょうが、囲炉裏やクドで火を使っていた頃には、屋根裏は煙たくてわざわざ潜り込みたくなるような空間ではなかったはずです。
「囲炉裏を使わないから屋根が傷む」という説は、通説としてまかり通っているほど僕としては納得してはいないのですが、「囲炉裏を使わないから屋根裏が快適→動物が入り込んで天井裏に棲みつく→動物が入らないように隙間を塞ぐ→屋根裏の換気が悪くなり屋根が蒸れて傷む」ということはあると思います。

外観はそれほど傷んではいなかったのですが、解体してみると再利用できる茅はほとんどありませんでした。
前回の葺き替えに用意されたススキの品質が、もともとあまり優れていたとは言えないものだったようです。
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下地の竹も軒並み虫食いのために交換が必要で、刈り旬を待たずに慌てて材料を用意しなければならなかった、前回の屋根葺きの際の苦労が偲ばれます。
茅葺きの葺き替えが人の暮らしの中にあった頃には起きなかったことでしょうが、公共事業の予算の執行には、茅葺きのリズムはのんびりし過ぎていて付き合ってもらえないようです。
そんな訳で今時の茅葺き職人には、常時材料のストックが欠かせなくなってしまいました。

下地を交換して軒を付け始めます。
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最初に屋根下地に固めの材料を薄くかきつけてこれが軒裏の一番内側のラインとなります。

現場の目の前には横一文字に伸びる天橋立。
晴れた日には広々とした風景に気持ちが和みます。
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うらうらとした春の日差しに、のんびりし過ぎて眠くなってしまうのは困りものですが。

070330 茅刈りの日々 4

投稿日: カテゴリー: 茅刈り

手入れして来た茅場のススキを、里山公園の修景工事に使うために株ごと移植することになりました。
造園屋さんが5,6人バックホーも使って、一日がかりで一番上の耕作放棄田のススキを掘りとって行かれました。
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茅葺き民家もある里山公園だから、そこにはススキが生えているべきだと考えて下さるのは嬉しいのですが、正直娘を嫁にやるような複雑な心境でもありました。
ススキは秋にタネを集めてまけば、いやでも生えてきて2,3年で立派に株立ちするのですが・・・
「守り育てる公園」「造り続ける公園」というコンセプトであっても、やはり竣工時の見栄えもそれなりに大切だということなのでしょうけれども。

さて、気を取り直して残された茅場の刈り取りを続けます。
ここではササとクズの薮になっていた耕作放棄田へ茅刈りという行為を働きかけることで、健康な里山の構成要素である茅場へと移行させようとしているのですが、そもそもススキは荒れ地に生える植物なので、廃田とはいえ土地の肥えた田んぼに生えると少々大きくなり過ぎてしまいます。
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右が団地の茅場で刈り取った「茅らしいススキ」左は田んぼの「ややごついススキ」

写真だと判りにくいかもしれませんが、手で触ってみると右の方がずっと細かく蜜な感触です。
細くても痩せた土地で苦労して育ったススキの方が、茅葺き屋根に葺いた際に丈夫で長持ちします。
ですから土地が肥えてしまわないように、伝統的な茅場では刈り取りの後に火を入れて、落ち葉や雑草を燃やして処分していますし、それが出来ない団地の茅場では苦労してでも掃除が欠かせないのです。
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田んぼの茅場でも、肥料を吸収して大きくなったススキを毎年刈り取って持ち出すことで、次第に肥料過多な状態は解消され土のバランスも良くなって来ているようです。
最初のころはもっと大きなお化けみたいなススキでしたが、これでも段々良くなって来ていますから。

何とか茅刈りも済ませて、里山も春を迎える準備が整いました。
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株ごと掘りとった手前の方が、ちょっとすっきりし過ぎていますけれども・・・

気がつけば茅場を囲む雑木林の縁では、サツキの花が咲き始めています。
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茅刈りの季節は終わっていました。
茅葺きに行かなければ。

070327 茅刈りの日々 3

投稿日: カテゴリー: 茅刈り

団地の茅場の茅刈りをやっと片付けて、里山の茅倉庫の周りの茅刈りに移ります。
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ここでは茅刈りを中心とした「茅葺きによる里山管理」を実践しています。

茅場としてはまだ新しいのですが、周囲を幹線道路に囲まれた団地の茅場と違って、荒れ始めているとはいえ長いあいだ里山の暮らしが営まれていた土地ですから、手入れをしたところにはすぐに豊かな自然が戻って来ます。
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先日姿を見せたカヤネズミ?が夏のあいだ暮らしていた古巣が、茅場のあちこちに架けてあります。

さて、茅場とそこに生えるススキは手入れするほどに良くなって行くという話しをしましたが、同じように刈り取って同じ場所に生えているススキなのに、このように真っ直ぐに生える株の隣りで、曲がったススキばかりの株が生えてしまうこともあります。
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手入れしないことには話にならないのですが、手入れしても曲がってしまうススキがあるのは、環境だけではなく遺伝子とかも関係しているのかもしれません。

070324 茅刈りの日々 2

投稿日: 6件のコメントカテゴリー: 茅刈り

細くて真っ直ぐで、茅として最高のススキです。
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毎年欠かさず茅刈りをして手入れを続けていると、このようなススキが生えて来てくれます。

一方で事情があって3年ほど茅刈りを休んだ場所は、たちまちこの通り。
枯れたススキを刈って取り除かなければ、翌春の芽吹きの邪魔になり曲がったススキが生えて来ます。やがては枯れ草に空間を占拠されてしまい、芽吹きそのものも不活発となり枯れ草だけの薮となってしまいます。
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枯れ草に遮られて日の当たらなくなった地面には野花が咲くことも無く、枯れ草ばかりでは虫もそれを食べる鳥も暮らすことは出来ません。
やがて枯れ草も絡まるクズに引き倒されて、クズの蔦が絡まり合いのたうつだけの、単一で貧弱(で凶暴)な植生へと移行してしまいます。

ところでこのクズの蔓は茅を束ねる「サンバイコウ」としてはとても具合が良いのですが、それは地面を這っている蔓に限られていて、ススキや灌木に絡まり立ち上がった蔓は使い物になりません。
茅刈りのされた茅場では、クズが成長する時期にはススキはまだ柔らかく丈の低い青草ですから、クズはそれに絡まり立ち上がることはできず、またその必要も無く、地面の上を横へ横へと伸びて行きます。もし茅刈りをしなければ、翌年にはクズは日光を求めて立ち枯れたススキに絡まり立ち上がり枝分かれしてねじれ、混沌としたクズの薮をつくりはじめてしまいます。
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しかし実際には茅刈りをして立ち枯れたススキを取り除くとともに、茅場の地面を這い回っているクズの蔓を集めてサンバイコウとして活用することで、翌年にもクズはおとなしく地面の上に蔓を伸ばし、秋になればススキ野原の中に七草にも数えられる花を咲かせます。
秋の七草は全て茅場に生える植物なのですが、ススキとクズの関係に見られるように、それらは茅刈りという行為を通じて人の暮らしが関わることで、ともに茅場という環境をかたち作り共生してくることが出来たということのようです。

さて、クズの他にも茅場を好んで生える植物は多くあり、このチガヤもそのひとつです。
ススキのような棹が無く柔らかくしなやかなので、これもサンバイコウに使ったりもしていますが、クズの蔓や稲ワラに比べてつるつるして滑りやすいので、束ねた後運ぶときなどに多少ずれて緩んだりしやすいという欠点があります。
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その分稲ワラなどに比べて水には強いと思われるので、ススキに比べて軽量で扱いやすい特徴も活かして、ワラ葺き屋根の茅として使えないかと思い色々と試したりしています。

茅刈りを始めて6年目の茅場。もこもこと株立ちしているのがススキで、その間の暗い部分がセイタカアワダチソウの優先する群落です。
そして、道路から2mくらいの幅で、やや丈の短い草が帯状に茂っているのがチガヤの群落です。
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チガヤはススキよりずっと早く、夏のあいだに花をつけてタネを散らします。
道路沿いにチガヤのベルトができたのは、道路管理者の市が秋の初めに業者を頼んで草刈りをしているせいなのかもしれません。チガヤもススキも刈ることで芽吹きを促し元気になる植物ですが、草刈りをするタイミングによって、チガヤが優先する草原になったり、ススキの優先する草原になったりするのでしょう。

ススキの根株にはナンバンギセルの花の跡が。
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始めて見付けた時には正体が分からず訝しんだものでした。
例年通りのもう少し早い時期に茅刈りをしていると、触るたびに胞子のように細かい黄色のタネをまき散らすので、キノコの仲間かと思っていました。

茅刈りの時期が遅れたせいか、今年はモズもちょっと顔を見せに来たくらいでした。
つがいでやって来ては似合わないやさしい声で鳴き交わしていて、もう茅刈りに張り付いてエサを探し、冬を乗り切るという時期は過ぎてしまったのでしょう。
ちょっと悪いことをしたかなあ。
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かわりにシベリアに帰る前のツグミがやって来て、茅刈りを済ませた茅場を歩き回っていました。