2008年04月23日

●0423 茅場と鹿のほど良い関係

美山にしては数年振りの大雪に見舞われた冬を乗り切った、砂木の家の屋根葺きを再開します。
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養生シート、足場、雪囲いと、無事なようで胸を撫で下ろしました。

が、裏側にまわってみるとこのとおり。
雪の重みに耐えかねた足場が折れて、下屋の瓦が相当数割れてしまっていました。
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とはいえ雨漏りも無いし、雪の中に葺きかけのまま半年近くも放置したのだから、この程度で済んで良かったと思います。

さて、昨秋ご近所の協力のもとこの砂木の家で開催した、カヤマル'07が集落内で好評をいただき、村のお堂の修繕もカヤマル式に行えないかというご提案を頂きました。
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ありがたいことです。
当然茅葺きは茅刈りから始めなければなりませんから、秋に良い茅が刈れるように村の茅場の手入れをしておきました。
ここでは昨秋茅刈りをしていないので、枯れたススキがそのまま残ってしまっています。これが混じると茅としての品質が悪くなるので、新芽が出る前に刈り倒しておきます。

場所によっては既に芽吹いているススキの株もありましたが、よく見ると僕たちが刈る前から新芽の先がありません。
鹿が食べた痕のようです。
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それでは鹿に食べられてしまって、このススキはもう茅としてダメなのかというと、この時期ススキの成長点は根本近くにあるので、葉先を食べられても問題は無いそうです。

そういえば休耕田を茅場にしようとすると、土が肥え過ぎていてススキが大きく育ち過ぎてしまうため、5月の連休頃に新芽を一度刈ってしまうと良いと言われたことがあります。ただし、刈る時期が遅くなるとススキが花を咲かせなくなってしまうので、6月が近づいたらもう手を出してはいけないとも言われました。

ススキは春の野辺に真っ先に芽を出す草の一つです。そこで青草に飢えた鹿に食べられることがあっても、茅としての品質に影響はありません。やがて暖かくなり勢い良く葉を伸ばす時には成長点も葉先へと移動して来るので、この時に葉先を食べられてしまっては困りますけれども、もうその頃には茅場は柔らかなハコベやノカンゾウで溢れているので、鹿も固くなったススキを好んで食べることは無いのでしょう。

何とも上手く出来ています。
ちょっと出来過ぎではと思うくらい。

2008年04月22日

●0422 芽吹き前の茅場

一旦美山に帰るにあたり、資材を取りに里山の茅倉庫に立ち寄りました。
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先月は梅の香りだけが春の訪れを知らせていた周りの茅場は今や春の野花の盛りです。

ここがかつて長い時間田んぼであった記憶をとどめるレンゲの他に、スミレ、タンポポ、ハハコグサ・・・最近ではあまり見かけなくなった在来種の花も多く見かけます。
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毎年冬には茅刈りによって手入れされ、春先には地表に隈無く日光の降り注ぐ茅場は、春に花を咲かせる野花に取っては理想的な環境なのでしょう。
何千年ものあいだ人の営みに寄り添うようにして、多くの野草が花を咲かせて来たはずです。

そして日当りの良い草原を好む植物は、茅刈りによってススキが元気に繁っていればこそ、ススキとともに葉を伸ばして行くことができるのです。
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ワラビもそんな草のうちの一つ。ですから、手入れの良い茅場では春にはワラビ採りが存分に楽しめます。

積み上げていた茅束の中から飛び出して来た、この小さな小さな野ネズミも、やはり人の手が入ることでつくられる茅場の環境を棲処としています。
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おそらくカヤネズミかと思われます。
文字通り、茅とともに生きるネズミですからね。

2008年04月20日

●0420 白山麓の街

飛騨かやぶきのスギヤマさんの手配された仕事を請け負うために、越前の小松まで下見にやって来ました。
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北陸自動車道は何度も通っていますが、いつも白山は雲に隠れて見ることは出来ませんでした。
しかしこの日は快晴!早苗田の遥かに残雪を頂いた霊峰が青空に映えています。

こちらがその物件、「癒しの森」公園内に移築された旧米谷家住宅。
一見関西で見慣れた入母屋づくりの茅葺き屋根と似ていますが、よく見ると棟のかたち、破風のかたち、角や軒のかたち、細部は随分と違っています。
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傷みの進んだ片側の大間を限られた予算で修復するという、先のかやぶき音楽堂と同様の依頼ですが、かたちが違うというのは中の構造も葺き方も違うということですから、一筋縄では行きそうにありません。

さて、癒しの森の中にはこんな茅葺きの建物もありました。
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世界的な豪雪地帯である白山麓で、夏の間だけ山腹の耕作地に泊まり込むための「出造り小屋」だそうです。
こういう職人の手によらない、百姓の百の技の一つによるつくりの茅葺きにとても惹かれてしまいます。

2008年04月17日

●0417 大屋根の刈込み

ナカノさんの美山茅葺株式会社が若狭小浜で萬徳寺という大きなお寺の屋根を葺いておられます。
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刈込み仕上げの最後の最後をちょっとお手伝いするために行って来ました。

本当に大きな屋根です。
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我々茅葺屋が藍那にいた冬からずっと、手仕事を積み重ねてここまで葺いて来られました。美山は小浜から峠一つ越えただけの丹波の北西端ですが、雪の中を峠を越えて通うのはさぞかし大変だったことと思います。ご苦労様でした。

2008年04月05日

●0405 刈込み・竣工

棟まで差して上がったら、仕上げのハサミをかけながら上から順番に足場を外して降りて来ます。
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最後に軒裏を刈り揃えて完成です。

足場を撤去して掃除をすませたら竣工です。
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天候にも比較的恵まれたので、手早く済ませることができたと思います。

2008年04月03日

●0403 続々・差し茅

ほぼ棟の際まで差して上がって来ました。
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今回の差し茅修理はここまでです。

棟に近づいて見てみると、棟に段を付けて積んだワラが何カ所も引っ張り出されていました。
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おそらくカラスの仕業かと思いますが、エサを穫っているという説には首を傾げます。茅葺き屋根の中は乾燥しきっていて、カラスのエサになるような大きな虫はほとんどいませんし、何より葺いたばかりの屋根からも茅を引っ張ります。カラスほど頭の良い鳥が新築の屋根には虫がいないことを理解できないとは思えません。

やはり、遊び半分なのではないかと。

2008年04月01日

●0401 続・差し茅

我々関西の茅葺き職人は、通常なら先に大間(屋根の平面)を葺いてから、それを規準に小間(屋根の妻面)を葺くのですが、事情があり先に小間を葺いたので少々差しにくい思いをしました。
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アリゴシまで葺き上がったのでこれからはもうそんな不自由はありません。

ところで工期中は現場に泊まり込ませて頂いているのですが、こちらの茅葺き民家は「茅葺き住宅」として活用するために、色々とアイデアを凝らしたアレンジがなされています。
僕が寝ている屋根裏を改造した2階の間もそのひとつ。大きく開けられた窓からの光が美しい屋根裏の造作を照らしています。
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ただし、居室の天井が茅葺きの「現し」だと、やはりゴミやホコリが落ちて来ます。
ましてや屋根葺きの最中なら尚のこと!寝具や着替えを毎朝シートで養生することは欠かせませんでした。

僕の個人的な考えとしては、茅葺き屋根の下は居室に使う天井のある部分と、縁側や土間、囲炉裏の間など「半屋外」として割り切り吹抜けにする部分に分けてしまった方が、住宅としては使いやすくなり屋根も長持ちするのではないかと感じています。
そのあたりのことは砂木の家で試してみたいと思っています。