2007年10月23日

●071023 岩手花巻研修行

某団体の主催する、茅葺き職人を対象とした研修会に参加するため、岩手県の花巻市まで行ってきました。
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まず、同団体が技術研修の会場として運営中の、文化財指定民家の小屋を葺き替えている現場を見学しました。

見学の目玉は「芝棟」と呼ばれる、この棟の収まり。茅葺き屋根の棟に土を乗せて草を植え付け、それで雨仕舞いとしています。
北東北では広く見られる棟で、茅葺きの上に土を乗せるのは、縄文時代の竪穴式住居でも行われていた事が確認されている、根源的で基本的な茅葺きの技術のひとつです。
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とはいえ、関西では全く見る事の出来ない棟ですので、知識としては知っていても、あらためて目にすると何とも新鮮です。とても、かわいらしいと思います。
色々な植物を植えるパターンがあるようですが、今回は土ごと切り取って来た野芝を張り付けてありました。ディティールの説明はあったものの、頻繁に踏まれる場所でなければ良く育たない野芝が、屋根の上で他の雑草に負けずに根を張れるのか、竣工後の「付き合い方」の部分がいまひとつわからなかったのが、少々心残りでした。

続いて、日本最大規模の茅葺き屋根を持つ正法寺を参詣。
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何度訪れてもその大きさには圧倒されますが、昨年「平成の大改修」が終了して、真新しくなった屋根は一段と立派です。
境内もきれいに整えられたので、葺き替え前のような、苔むした茅葺きの巨大な古屋根が、杉の古木に囲まれてたたずむモノノケ的な魅力は削がれてしまいましたが、それは物見遊山に訪れた者の勝手な言い分というものでしょう。

裏山に登って近くで見ると、その巨大さにあらためて驚かされます。
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そして、この大きな屋根を揃えて葺き上げた、宮城の屋根屋さんたちの技術の素晴らしさにも。

バスに揺られて眺めた範囲では、一般の住宅はトタンを被せられたものが多かったのですが、トタンにもやはり地域性が滲み出ておもしろいです。この写真は瓦型のプレス板金による面白みの無いものですが・・・乗り合いの交通機関は、面白そうなものがあっても、ちょっと止めて見る訳にはいかないのがつらいです。
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茅葺きからの改変では、マンサード(腰折れ屋根)の納屋に興味を惹かれました。おそらく茅葺き屋根を下ろして代わりに乗っけたものだと思いますが、現代ではこれがスタンダードになっているようでした。
屋根裏にワラや干し草を保管しようとすれば、茅屋根よりもずっと効率的なので、普及したものなのでしょう。なだらかな丘陵地に放牧地や草刈り場の広がる、北上山地の「牧の風景」にとても良く似合っていました。

最後に東北新幹線を下りたときから気になっていた、新花巻駅の正面に建つ立派な茅葺き民家に立ち寄りました。つい最近までおばあさんがひとりお住まいだったのが、花巻市の管理になったところだということでした。
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磨き上げられたダイドコの床や、手入れの行き届いた障子にまだ人の暮らしのぬくもりが残る建物でした。
花巻市には、新幹線の駅の正面に茅葺き、というロケーションを大切にしながら、ぜひとも深みのある活用を期待したいです。

それにしても新幹線を乗り継いでの一泊二日は、やはりせわしなく疲れました。東北は大好きな土地なので、次回は時間の余裕を見て訪れたいものです。