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2006年11月19日

●061119 トタンは美しい、こともある

久し振りに、トタンを被せられた茅葺き民家について。

トタンなどの金属板を被せられたら、それはもう茅葺きではないという見方もあるでしょうが、僕はトタンも数ある茅葺き屋根のバリエーションのひとつという考えですから、茅葺き屋根の様式が気になるように、「トタンの被せられ方」にもいちいち目が行ってしまいます。

北摂丹波地域には、内部の茅葺き屋根のプロポーションを忠実に再現し、板金細工で棟飾りまで拵えたトタンの屋根がたくさんあります。
トタン考5.jpg
これらは比較的早い時期にトタンを被せられたものが多く、実は茅葺き職人から板金屋さんに転職された方によって葺かれていたりします。
オリジナルの木で出来た破風(三角の煙り出し)をそのまま用いていたり、あくまでも茅葺き屋根を葺き換えるにあたって、材料のひとつとしてトタンを選択したという姿勢を見て取ることが出来ます。

茅葺きという文化を支えていた伝統的な農業が行われなくなり、材料としてススキや小麦ワラよりもトタン板の方が合理的になって来た世の中の変化に合わせて、職人としてトタン板を扱う技術も習得して、茅葺き屋根に携わり続けた先輩方の生き方には感銘を覚えます。
トタン考2.jpg
実際これらの屋根は農村風景の中にも馴染んでいるように思えます。
もちろん茅葺き本来の、自然と共生する人の暮らしによって培われる風景からもたらされる、安らぎのようなものには欠けるかもしれませんが、そもそも茅葺きが象徴した循環する生産システムの失われつつある現在の農村においては、純粋にその形態の美しさは讃えられても良いのではないでしょうか。

一方で最近よく見られるトタンを被せられた屋根に、瓦型にプレスされたトタン板によるものがあります。
トタン考4.jpg
こちらは出来合いのパーツをメーカーの仕様に従って組み合わせて葺くものなのですが、茅葺き屋根を土台として新しい屋根を作るようなところがあり、建物全体としてのバランスとしては妙に頭でっかちになってしまいがちです。

板金職人さんがハサミでトタンをチョキチョキ切りながら葺いた屋根は、トタンを被せられても豊かな地域性を意外に残していることに驚かされますが、瓦型プレス板金の場合は内部の茅屋根に関係なく同じ仕様の屋根を乗っけているだけなので、全国どこであっても何だか変化に乏しい屋根になってしまうのも残念です。

トタンDSC00050.jpg

繰り返しになりますが、トタンを被せられたからといって茅葺き屋根は終わりではありません。環境が整えばまた剥がせば良いだけのことですから。
しかし、民家の姿は時代や環境に合わせて変化して行くものですから、ある時期を象徴する茅葺き屋根のスタイルとしてまずトタンを認めたうえで、「良いトタン」や「いまひとつのトタン」と批評してみるのも面白いのではないでしょうか。

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コメント

茅葺鋏とトタン鋏って違うでしょうけど、鋏を使って仕事をする・・・なんて感覚、移行しやすいんでしょうか。

瓦型プレス板金て、本来緩い勾配の屋根で使われる瓦(瓦とはすなわち載せるものである)を急角度の屋根(かぶせ貼る)で採用してるように見えるから妙だと思います。

急勾配の屋根の場合は、壁と屋根の中間的な収まりになるのは必然と思います。

よく、平屋農家の屋根が二階建てにおろしてることがありますが、なぜ大工は、急勾配を生かした内部を提案して二階家にしてやらないのか?とおもうときもあります。
固有の農家の歴史が簡単にどこにでもある住宅地のようになってしまう、傍目に少し残念であります。

多雨の日本で、雨が漏らぬは職人の基本ですし、
採光の為のトップライトとか、
新しい技術に不安があるのでしょうかね。
兜屋根のような中間系もあるかとおもうのです。

ichide さん、コメントありがとうございます。

屋根ハサミとトタン鋏、どうなんでしょうね。僕はトタンで指の靭帯切ったことがあるので、怖くてあまり触りたくありませんけれども w
材料の茅が施主によって用意されなくなった時に、新しい材料に挑戦された方、茅葺きとは違う職種に挑戦された方、自前で茅を用意されて割高になる分文化財などに特化した仕事をされて来た方、いずれも大きな決断だったことと思います。

茅葺きの小屋組は梁から下とは別の構造体で、新築の際にも屋根屋が組んで来ていたので、大工さんとしては扱いにくいところもあるのかもしれません。
でも、茅葺き屋根を下ろして二階を上げるやり方にも、僕はそれなりに地域差を感じています。
有名なのは北陸の「大壁造り」ですが、茅葺きからの改造で生じたデザインが、新築の家出もなぞられることが結構多くて、そこから新たな地域性が生まれているのを見かけます。

もちろん、トタンを被っていても遮熱性能やその家の持つ記憶として、茅葺屋根には捨て難い魅力がありますから、兜屋根のようなものはもっとあってほしいところです。
トタンを剥がすのは簡単ですが、一度茅葺き屋根を下ろして二階建てにした家は、茅葺きに戻すのはちょっと難しくなってしまいますし。

茅屋根を活かしつつ二階建てにするとなると、大工さんは工務店だけで仕事はこなすことができず、いちいち屋根屋を呼んでこなければなりませんから、そこで話しがきちんと通るように、むしろ屋根屋の側から大工さんや設計事務所に提案して行かなければならないかなと、自戒を込めて思いました。

トタンを葺いてしまった屋根もまた茅葺きにもどせるとは思いませんでした。

昨日通った道沿いに普通の2階建てに茅葺き屋根が乗っかっている家を偶然見ました。
茅屋根さえなければ、普通の総2階の家でした。
実は大変なことだったのでしょうか?

ちょっとこのブログを読んで考え方が変わりました。
トタンを被せられた屋根に対してちょっと批判的でしたので。。。反省。。。

ceico さん、イダニ さん、コメントありがとうございます。

>ceico さん、茅葺き屋根の乗った2階建てですか!
僕も滋賀と三重の県境のあたりで、そういうものを見たことがありますが、それは最初からそういったデザインを狙った新築のようでした。

茅葺き→2階建て→もう一度茅葺き というキャリアを持った家だとしたらすごいことですね。
どんな人が暮らしているのだろうか、とか、想像が膨らみます。

>イダニ さん、確かに茅葺き民家にどんどんトタンが被せられて行くのを見るのは、とても寂しいものです。でも、2階建てに改造されたり取り壊されたりすることを思えば、トタンは中に茅葺き屋根が大切に保管されているカンヅメだとも言えますから。

世の中の仕組みが色々と変化して、茅葺き屋根を葺き換えるよりトタンを被せた方が無理が生じないのが現実なのでしょう。
一方で今の時代の求めに応える茅葺きの良さも見直され始めましたから、新たな価値観を創造して茅葺きを葺き換えることが自然な環境を整えることができれば、やがてカンヅメを開けることが出来る日も来るはずです。

はじめまして
ichideさんの知り合いです。

茅葺きの方が「板金屋根にしてしまっても。いいものがある」という視点は新鮮です。
茅葺き職から板金に移っていった人は、体にしみこんだ感覚と愛情が、板金という材料になっても、同じ感覚で仕事をされるんでしょうね。プレス板金では、そんな愛情や手仕事が表れず、画一的になってしまう。。
いろいろな事があってそうなってしまうのでしょうけれど、寂しいですね。

茅葺き屋根のカンズメ

温かいshiozawaさんの視点を感じました。

シダ さん、はじめまして。コメントありがとうございます。

カンヅメという表現は、岡山で茅葺き民家の保全に取り組んでおられる方達が、使っていたのを耳にしたのが最初でした。
「ウチらの方はカンヅメばかりになってしもうて」と否定的に使われていたのですが、僕にとってはトタンを被せられた屋根に、「未来へ託すための茅葺きの缶詰」という一面を見出すきっかけを、与えて頂くこととなりました。

もちろん、茅葺き屋根の最大の魅力は、身近な循環する材料で支えられ、それを生産する過程で人と自然の共生する豊かな自然環境を育む、その仕組みにあると考えていますので、いずれ缶詰は開けることを目指している訳です。
ただ、そのときが来ても単なる茅葺きのカバーとして片っ端から剥いで行くのではなく、職人さんや住人の方の想いや技の込められたものには、正当な敬意を払って行かなければならないのではと思っています。

Not bad at all, but this topic is rather little of interest. Please do not disappoint your readership.

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