茅葺屋の住まい@砂木の家/新築」カテゴリーアーカイブ

0423 茅場と鹿のほど良い関係

美山にしては数年振りの大雪に見舞われた冬を乗り切った、砂木の家の屋根葺きを再開します。
P4233006.jpg
養生シート、足場、雪囲いと、無事なようで胸を撫で下ろしました。

が、裏側にまわってみるとこのとおり。
雪の重みに耐えかねた足場が折れて、下屋の瓦が相当数割れてしまっていました。
P4233011_2.jpg
とはいえ雨漏りも無いし、雪の中に葺きかけのまま半年近くも放置したのだから、この程度で済んで良かったと思います。

さて、昨秋ご近所の協力のもとこの砂木の家で開催した、カヤマル'07が集落内で好評をいただき、村のお堂の修繕もカヤマル式に行えないかというご提案を頂きました。
P4233019.jpg
ありがたいことです。
当然茅葺きは茅刈りから始めなければなりませんから、秋に良い茅が刈れるように村の茅場の手入れをしておきました。
ここでは昨秋茅刈りをしていないので、枯れたススキがそのまま残ってしまっています。これが混じると茅としての品質が悪くなるので、新芽が出る前に刈り倒しておきます。

場所によっては既に芽吹いているススキの株もありましたが、よく見ると僕たちが刈る前から新芽の先がありません。
鹿が食べた痕のようです。
P4233014_2.jpg
それでは鹿に食べられてしまって、このススキはもう茅としてダメなのかというと、この時期ススキの成長点は根本近くにあるので、葉先を食べられても問題は無いそうです。

そういえば休耕田を茅場にしようとすると、土が肥え過ぎていてススキが大きく育ち過ぎてしまうため、5月の連休頃に新芽を一度刈ってしまうと良いと言われたことがあります。ただし、刈る時期が遅くなるとススキが花を咲かせなくなってしまうので、6月が近づいたらもう手を出してはいけないとも言われました。

ススキは春の野辺に真っ先に芽を出す草の一つです。そこで青草に飢えた鹿に食べられることがあっても、茅としての品質に影響はありません。やがて暖かくなり勢い良く葉を伸ばす時には成長点も葉先へと移動して来るので、この時に葉先を食べられてしまっては困りますけれども、もうその頃には茅場は柔らかなハコベやノカンゾウで溢れているので、鹿も固くなったススキを好んで食べることは無いのでしょう。

何とも上手く出来ています。
ちょっと出来過ぎではと思うくらい。

0213 雪の季節

所用があり美山の自宅の様子を見て来ました。
0204_1254.jpg
今シーズンは晩秋にカメムシが多くて嫌な予感がしていましたが、やはり雪の多い冬となってしまいました。
「カメムシの多い年は大雪」

雪が積もらないように軒先の足場板は全てはずしてあるので、雪下ろしをしようにもあがることも出来ません。
0213_1323.jpg
まあ、屋根の上においておけば晴れた日には溶けるし、これ以上は積もらないだろうと思っていたのですが・・・一週間ほどあけて行ってみると更にひどいことに。
春まで無事なのを祈ることしか出来ません。

カメムシの多い年だからなのか、神戸の藍那まで雪に見舞われることが多くなってきました。
02131391.jpg
本格的な雪の季節になっては、茅屋根葺きは捗りません。

071123 冬支度

仕事の合間を縫って少しずつ葺き進めていた砂木の家、ようやく窓枠周りの複雑な所も含めて、全ての軒が固まりました。
071119PB190328.jpg
さあ、これからペースが上がるというところなのですが、ここでひとまず時間切れとなってしまいました。

来週から神戸で大きな現場が始まるので、雪の季節を迎える美山を後にして、春までこちらはお休みです。
071123PB230319.jpg
屋根に養生を念入りに施し、雪が積もって足場が壊れないように茅も全て下ろします。

下ろした茅は、先日刈った茅と合わせて軒周りにぐるりと立てかけておきます。
071123PB230315.jpg
刈った茅を乾かすと同時に、壁の無い砂木の家に風が吹き込むのを防ぐためです。いわゆる「雪囲い」ですね。

家の中から見るとこんな感じ。風を防ぐ上に断熱性の高い茅束に囲われて、とても暖かくなります。
071123PB230316.jpg
ただ、とても暗くもなりますが。

それでは、春まで無事でありますように。
071123PB230313.jpg

071118 時雨れて後、虹

今朝は久し振りに雨の音で目が覚めました。
071118PB180288.jpg
これからの長く暗い季節の到来を知らせる冷たい雨ですが、盛りを迎えた紅葉の鮮やかさが気持ちを救ってくれます。

雨の日はもちろん、屋根は触れません。
11月は竹材の切り旬で、この季節に切った竹には虫が入ることがありません。集落の入り口にある竹薮に、竹伐りに行きました。
071118PB180290.jpg
かつては稲藁とともに生活道具の多くを賄っていた竹材ですが、最近では使われることが少なくなったばかりに、各地で増え過ぎて問題視されてしまっています。
茅葺きには大量の竹が必要ですから、地主さんにことわって刈り続けて行くことで、この竹薮もきれいな竹林に育てて行きたいと思っています。

時雨れている中で竹を伐るのは、なかなかに堪える仕事ではありましたが、夕方に雨が上がるとちょうど砂木の谷を跨ぐように、見事な虹がかかるのを見ることができました。
071118PB180308.jpg
これほど近くで、はっきりした虹を見るのは始めてだったかも知れません。

071117 雪虫

今朝は冷え込んで、茅屋根の上に初霜が降りました。
071117PB170360.jpg
去年の冬は年が明けても生暖かい日が続きましたが、今年の冬は例年並みの積雪となるのでしょうか。
雪は困りますが、ナラ枯れの急速な蔓延と、昨年の暖冬、今夏の猛暑が関係していたのなら、冬は冬らしく寒くなって欲しいとも思います。

秋に冷え込んで霧の立ちこめる朝は、日中の快晴を約束してくれます。
071117PB170365.jpg
ここ数日、美山では穏やかな小春日和が続いています。
天候に恵まれて、砂木の家の屋根葺きもじわりと進行しました。

優しい午後の日差しの中を、ふわふわと小さな綿毛のようなものが待っています。
071114PB140341.jpg
体から分泌され蝋状の綿毛に覆われたアブラムシの仲間ですが、美山をはじめ積雪地では広く雪虫とか雪ん子とか呼ばれています。
雪虫が飛ぶと、そろそろ初雪が降ると言われています。雪の季節までに屋根を葺いてしまうのは、難しくなって来ました。あわてる必要も無いのですが・・・

071114 刈ったり、燻したり

砂木の家の周りの茅場でも、雪が来る前に茅刈りをすませておきます。
071111PB110315.jpg
こうして毎年少しずつでも茅刈りを続けることで、葺き替えのための茅を用意するだけでなく、家の周りにミズヒキソウがかわいらしい花をつけ、キリギリスやスズムシの鳴く、ススキ野原を育てることにもなっています。

土間では毎日燻炭をつくっています。
071114PB140339.jpg
実に簡単な仕掛けですが、燃やしているのではなく蒸し焼きにして炭を作っています。部材にはほとんど色がつきませんので、煙はほぼ水蒸気で煤はあまり含まれていないようです。

出来あがった燻炭は、床下断熱材として根太の間に敷きつめます。その上に畳を敷くための荒板が貼られて行きます。
071114PB140334.jpg
以前美山町内で、地元の木を使った立派な築60年の小学校の校舎が、解体されてしまったことがありましたが、その際に2階の教室の床板を剥がすと、籾殻が敷きつめられていました。最初は何のためのものか判らなかったのですが、おそらく断熱と防音のためだろうと。
床下からの寒気を遮断することは、効果的な暖房のためには欠かせない対策です。なかなか適当な断熱材を見付けられずにいたとき、小学校の床のことを思い出したので、真似してみることにしました。
ただ、現在の脱穀方法で得られる籾殻は「糠が多く混ざっていて黴びる」と言われたので、それならば燻炭にしてしまおうと。
結果は、自分が暮らしてみて確認します。

071108 籾殻で薫炭つくり

土間と居間のあいだに紙を貼りました。
071107PB060132.jpg
こうして壁のように仕立てるとイメージがわかりやすく、完成した姿を思い浮かべてにやにやしてしまったりしています。

もちろん、そうやって遊ぶために紙を貼った訳では無くて、土間でこんなことをするので煙除けです。
071107PB070301.jpg
籾殻を蒸し焼きにして、薫炭を作っています。土壌改良材や種まきのときに一緒に蒔いたりして、農業の現場ではおなじみの素材ですが、砂木の家では床下断熱材として使ってみようと思っています。

ただ、毎日燻しているので、屋根の上で作業する人は大変ですが・・・
071107PB070304.jpg
かつては日々の生活の中で家の中で火を焚いていて、それは屋根の葺き替えをしているときも変わらなかった訳ですから、昔の屋根屋さんの苦労が偲ばれます。

そんなことをしながら、砂木の家の屋根葺きも少しずつ進んでいます。
1108PB080305.jpg
晴れた日には晩秋の日差しにススキの穂が輝いて、外で働くのが気持ちの良い季節ですが、日が落ちるとたちまち冷え込んできます。

071107 風破の仮付け/ある牡鹿の死

カヤマルの応対やら何やら色々あって後回しになっていた、「コムネ」と呼ばれる入母屋屋根の風破の部分の下地を組みました。
071107PB050131.jpg
2本1組にレンを組んだ上に、「ネズミ」と呼ばれる細い丸太を乗せます。風破板の天辺をこのネズミの端に釘打ちしてぶら下げるので、スミレンの上に丸太を立てて支え、ネズミの端の高さを調整して破風板の大きさを決定します。

破風を設置した時に小間の下地とのあいだに、茅を葺き詰めるすきまがちょうど残るように、棟木とネズミの長さを決めて切断します。
071107PB070286.jpg
先日解体した茅葺き屋根に取り付けられていた破風板を、屋根全体のバランスを見るために仮に取り付けてみました。
もう少し小さくても良いかなあ・・・

ところで、今朝仕事を始めようと足場に上がると、裏山で大きな生き物が暴れていました。栗畑に張られた防獣ネットに、若い牡鹿が角を絡ませて身動きとれなくなっていたのです。
ニホンジカは美山では有害鳥獣駆除の対象となっています。こういう時狩猟免許を持っている人ならば家に猟銃を取りに帰り、持ってない僕は役場に電話したところ、担当の方が来られて回収されて行きました。
071107PB090285.jpg
あとに残ったのは切断されたネットだけ。
大型の生き物の死に立ち会うことに慣れてはいないので、牡鹿の断末魔の声を耳にして、正直動揺がなかったわけではありません。しかし、ここで鹿がかわいそうだと考えてしまうのは、あまりに安直でとても無責任だとも思っています。

鹿が人里まで頻繁に下りて来ることに問題があります。
よく金儲けに走って杉を植え過ぎたせいだとか言われますが、雑木林であっても人の手が入らず放置された、鬱蒼とした山にはやはり鹿の食べ物になるようなものは少なく、茅場のような草原が無くなってしまったことも併せて、山が人の生業の場として成り立たないような社会の仕組みそのものに、原因があると感じています。

私たちは全員がそのような社会の中で暮らしていて、道路建設や宅地開発でさらに鹿の生活圏を狭めています。その結果たくさんの鹿が餓死したり、交配の機会を妨げられて病気にかかりやすくなったりしているはずで、私たちは普段何気なく暮らしているだけで、無意識のうちに鹿の大量殺戮に加担してしまっているのです。死体の見えない死に対しては無関心でいながら、目前での死に対して感情に委ねた対応をすることは、社会全体で根本的な解決を考えるべき問題を、農山村の責任に転嫁することであり、あまりに無責任なのではないかという気がするのです。

自然と共生するということは、生き物を愛玩することとは違います。人の社会も生態系の環の中に参加するとき、生きて行くために他の生き物の命を奪う罪を、受け入れる覚悟も必要になるはずです。
そのうえで、無駄に殺すことのないように一人ひとりが社会の在り方に心を配らなければならないし、奪った命は無駄なく大切に扱うことをこころがけなければなりません。

そんな訳で、美山町では只今「美山鹿肉キャンペーン」を開催中です。
「森の恵み- ヘルシーな鹿肉料理をどうぞ」

071003 軒付け

自宅の前には川から引き込まれた水が流れています。田んぼに入れるための水路ですが、谷に沿って伸びる砂木の集落の家々の前を通る際に、野菜を洗ったり生活用水としても使われているので、稲刈りが終わったあとも水が止められることはありません。
1003P1090287.jpg
茅葺きはとにかく汚れる仕事なので、現場に手や顔を洗えるきれいな水が流れていると助かります。
今朝は、水路に咲くミゾソバの花びらが浮いていました。

さて、編み付けの上には稲ワラを並べて、下地に対して角度を稼いで行きます。
1001P1090250_2.jpg

藁の上には古茅の「シン」を並べて、さらに角度を稼ぎます。
1003P1090286.jpg
砂木の家は新築なので古屋根を解体した古茅は無いのですが、茅葺き屋根の軒裏に材料の違いで生じる縞模様が好きなので、他所の現場で畑に還されようとしていた古茅を頂いて来ておいて、縁側の前に持ってきてみました。

角度を稼ぐために並べた短い切り茅の上に、長く丈夫な茅を選んで並べて、竹で押さえます。
1003P1090288.jpg

カヤマル当日までに、ぐるりと軒を付けておいてしまいたいので頑張っています。
1001P1090252_2.jpg
カヤマルでは参加者の方に「葺く」体験もしていただくのですが、屋根の要となる軒付けは難し過ぎて手を出してもらえる工程がありません。あらかじめ現場をカヤマル仕様にしつらえておくことで、カヤマルの時に参加者の方々に積極的に関わって頂けるようになるのです。

カヤマルは、当日はもちろん事前の準備から事後のケアまで、仲間の職人たちが支えてくれているからこそ、中身の濃い体験会として続けて来ることができました。

070928 下地組み

足場が組まれると、「大工さんの建て方モード」から、「屋根葺きモード」へ現場が切り替わったような気がします。
0927P1090240.jpg
この現場では体験会「カヤマル」も開催することですし、安全面に配慮した広めの足場を組んでおきました。

足場が出来れば、下地の竹を組んで行きます。
緩まないようにしっかりと結わえて行くと、屋根カゴと呼ばれる下地はいかにも丈夫そうになりますが、この横竹は構造材としては最終的にはあまり機能していません。
0928P1090243.jpg
茅を並べてから茅を止めるホコダケ(茅押さえの竹)をレン(垂木)に締めつければ、あいだに挟まれた下地の横竹は緩んでしまうことも少なく無く、また、挟まれた茅全体の摩擦係数とホコダケで「総持ち」になっている茅屋根の構造上、緩んでも特に問題は無いのです。
下地の横竹をしっかりと結わえるのは、シートの上げ下げや下地工事の期間中、足場として使う際の安全性と、屋根裏から見た時の美しさに対する配慮です。
純粋な機能としては、横竹は並べた茅が屋根裏にこぼれ落ちて来ないように、そこに「ただあれば」良いものなので。

下地ができれば、軒を一番下で支える「編み付け」
0928P1090246.jpg
軒を支えるために丈夫で、かつ縁側から見上げた時に目に入る場所なので、化粧の意味もあり真っ直ぐできれいな材を使います。今回はヨシを使っています。
麻を栽培していた頃には、麻殻(オガラ)を有効利用していたりもしたようですが、ヨシのように光沢のある材料を用いた方が、縁先は明るくなります。