月別アーカイブ: 2008年11月

1129 茅刈りの季節/八多町の取り組み

神戸市北区の八多町には、珍しい茅葺き屋根の公民館「ふれあいセンター」があります。
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その屋根を守るために、地元自治会は中学生も参加した茅刈りを、毎年重ねて来られました。
昨年まではおじさんたちが草刈り機で刈り倒したものを、中学生は束ねて行くだけだったそうですが、せっかくなので茅刈りという文化を継承する機会にしようと、茅葺屋もお手伝いさせて頂き昔ながらの手刈りに取り組むことになりました。

刈り方と、刃物の扱い、安全注意事項を伝えたら、早速茅場に入ってもらいます。
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ここのような溜め池の堤は、決壊を防ぐために草の根を張らしておく必要があり、肥料や飼料として茅が必要とされなくなった後も、草刈りによる手入れが続けられているところが多く良い茅場になっています。
中学生たちはグループごとに、自治会のおじさんたちの指導を受けながら。

最初はおっかなびっくりで腰の引けていた子供たちも、次第に鎌の扱い方も茅のさばき方も、様になって来ました。
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最近では田舎といえども、大人も子供も忙しくてなかなか近所の人たちと触れ合う機会も乏しいように思いますが、茅の刈り方ひとつでも技術の伝承を通じて、世代間交流が進めばうれしいですね。

そして、人と自然の触れ合いも。
長年草刈りが滞り無く行われて来たここの茅場には、今まで見た中で一番たくさんのカヤネズミの巣が見付かりました。
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自分たちが茅葺き屋根のために茅を刈ることが、小さな生き物たちの暮らしを支えることにも繋がることを知ってもらい、子供たちが地域の自然と文化に興味を持つきっかけにもなってもらえたらと思います。

1122 丹後の笹葺き'08

毎年恒例の「笹葺きパートナーズ」による丹後での笹葺き、4年かかって上世屋の民家の屋根の葺き替えを完成し、今年から2棟目の屋根にとりかかれるまでになっています。
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作業の中心となる立命館大学経営学部の学生による、「丹後村おこし開発チーム」の面々は、今や笹刈りから笹葺きまで一貫してこなす、日本唯一の技能集団に育っています。

こちらの家は昭和10年に建てられた際に葺かれて以来、先日お亡くなりになったご当主自らが差し茅を続けて維持されて来たそうです。
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つまりは、一世紀近く囲炉裏やかまどの火で燻され続けて来た煤が、年月の分だけ屋根に溜まっているということで、古い屋根を解体する作業はものすごいことになりました。

家の中で煮炊きや照明のために火を使っていた頃には、茅葺き屋根は煤けているのがあたりまえで、皮膚に染み込む煤は洗っても簡単には落ちず、屋根屋は常に顔も手も黒かったものだそうです。
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しかし、最近では我々現役の屋根屋でもこれほど煤けた屋根には滅多にお目にかかりません。
にもかかわらず、丹後村おこし開発チームの学生たちは怯みもせずに、手際の良いチームワークで煤けた笹を屋根から下し、堆肥にするために積み上げて行きます。

古い屋根を下ろしたら、昨年末に刈っておいた笹を葺いて行きます。
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もともとは「笹葺き民家を守るために」始まった笹刈り。毎年刈り続けることで雑木林の植生が豊かになって行くことを実感し、笹刈りは学生たちにとって、「里山の自然と関わりを持つため」の営みとなりつつあるのではないでしょうか。

笹葺き民家の活用が里山の自然を守る営みの動機となることで、文化財の保存と生態系の保全、地域コミュニティの活性化が繋がり、人と自然、人と人とをつなぐ環が広がって行きつつあることを感じます。
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1121 棟の解体

めくり取った部分が埋まるまでには、まだもう何段か葺き上がることは出来るのですが、明日から茅葺屋チームはこちらの現場をしばらく留守にさせて頂くので、人数の揃っているうちに棟の解体を進めておきます。
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重いウマノリを下ろすのは危険な作業なので、慣れた人を揃えて段取り良く進めておく方が安心なので。

棟を雨から養生する杉皮を押さえるウマノリを外せば、その杉皮も外して下ろし、杉皮に養生されている棟に横積みした茅も解体します。
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どちらにしても、棟を交換するくらいに屋根の傷みが進んでいれば、棟の中にも多少なりとも雨が入ってしまって、積み上げた棟を止める縄もあちこち切れてしまっていますから。

棟から雨漏りしないように、厳重に、しかし作業する時には簡単にめくり上げることの出来るように養生しておきます。
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雨だけではなく雪が積もっても、シートを上げれば雪かきに煩わされずに作業を進めることができます。

1120 葺き上げ/小雪

小雪を前にして、とうとう今年最初の雪が積もりました。
美山では本格的な雪の季節は年末からですが、毎年小雪の時期に秋の終わりを告げるように一度雪が積もります。
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この雪に茅が潰されてしまうと、一番大切な根本の部分が折れてしまいます。美山の茅刈りは紅葉に急かされ初雪に追われて行われます。
来月始めには茅刈り体験会(カヤカル@美山)が予定されています。幸い今回はうっすら雪化粧程度で済みましたが、ひやひやものです。

現場も雪化粧。
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何度雪かきしても夜の間に降った雪でリセットされてしまい、毎朝雪かきしながら屋根を葺いた、何年か前の嫌な記憶が甦ります。

まあ、今年の秋は今のところ天候も安定しています。
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朝日が当たると薄化粧の雪はたちまち消えてしまいました。

無事に軒はつきました。雪の季節までに仕上がるように、張り切って葺いて行かなければ。
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1119 軒付け

今朝は冷え込んで、この秋初めて本格的に霜が下りました。
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眺めている分にはきれいでも、足場の丸太も真っ白になって、滑るし爪先は辛くなるし、地下足袋を履いた足には堪えます。

しかし、霜の降った日には、朝霧が晴れれば上空には青空が控えているものです。
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暖かな陽射しにぬくもりを覚えながら、順調に軒付けの作業が進みます。

紅葉が深みを増して行くにつれて、秋の実りもゆっくりと熟して行きます。
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美山にいるあいだは、旬の野菜が並ぶ農協の販売所を良く利用します。
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ナメコも秋の深まりとともに大きく育ち、街のスーパーで売っているものとはかたちからして随分違います。食べごたえがあって、美味しい!

1118 下地揃え

古屋根をめくり取ったら、屋根下地を直します。
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丸太と竹をワラ縄で結わえてあるだけの茅葺き屋根の下地は、しなやかで丈夫なのですが、時間が経つと縄が切れたり竹が虫食いにあって緩んでくるので、葺き替えの度に整えてやります。

こちらのお宅のように、茅葺き屋根に瓦の庇を差し込む錣(シコロ)屋根とせずに、昔ながらに茅葺きのまま軒まで葺き下ろしていると、レン(垂木の丸太)の分だけ軒裏から屋根裏へと空気の抜ける隙間が保たれます。
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屋根裏の換気が充分なされることが、茅葺き屋根の寿命に大きく影響しているように感じているので、屋根の一部なりとも葺き下ろしにしておくと、良いのではないかと思います。風情もありますしね。

屋根に穴をあけたので、屋根裏の様子も良くわかります。
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合掌材と棟束を併用する構造は、あまり古くない美山の茅葺き屋根に多く見られます。
毎年刈り貯めた茅がこの小屋裏一杯なると、ちょうど1回分の工事に間に合うくらいの量になっています。
最近ではお施主さんが茅を用意されることは少なくなりましたけれども。

こちらのお宅のある集落は西向きの高台にあり、美山では珍しくきれいに夕焼けが見られます。
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盛りを迎えた紅葉が夕日に照らされて、山が燃えるように輝いています。

1115 古屋根解体

ナカノさんの美山茅葺き株式会社の現場の応援に、美山町の野添地区にやってきました。

こちらのお宅は、母屋の正面を茅葺きのまま軒まで葺き下ろし、小屋も茅葺きで残されるなど、昔ながらの佇まいに愛着を持って守られているご様子が伺えます。
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美山の屋敷構えは、こちらのように小屋・母屋・土蔵が横一列に並び、小屋と蔵は母屋に棟方向が直交するものが、最も一般的に見られます。

まずは、母屋を葺き替えます。
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よく見るとそこここに押さえの竹が出て来てしまって、葺き替え時を迎えていることがわかります。

今回は棟まで葺き替えますが、一度にめくってしまうと工事用のブルーシートだけで養生する面積が大きくなり過ぎ、強く風に吹かれると雨漏りの心配が生じるので、まずは下半分だけをめくります。
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古茅はめくり取る時に分別し、再利用可能なものは長さごとにまとめ、使えないものは畑へと向かいます。

晩秋のこの時期、乾いて暖かな茅葺き屋根には、冬眠するために様々な虫たちが潜り込んでいます。屋根めくりの際に古茅ごと掴んでしまうと、カメムシなら臭いくらいですみますが、アシナガバチだと痛い思いをすることになります。しかも、後で猛烈にかゆくなります。
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夏場の鮮やかなレモンイエローは面影も無く、冬眠モードなのか焦げ茶色にくすんでふらふらしていて、まともに飛ぶことも出来ませんが、さすがに掴んだりすれば刺されることになります。
でも、焦げ茶色で動かないから、茅に紛れてなかなか気付かないんです。もっと、派手なままでいてくれたら良いのに。

お知らせ 茅葺きシンポ@神戸

「人のいとなみと田園景観〜茅葺き民家が『ゆたかさ』のシンボルに」というタイトルで、神戸市北区において茅葺きシンポジウムが開催されますので、お知らせいたします。
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港町の印象の強い神戸ですが、この建設年代が明らかな日本最古の民家「箱木千年家」も神戸にあります。明治以降の急速な街の発展を支えたのは、六甲山の北側に広がる豊かな北摂の農村地帯でした。

そして茅葺きのある農村での営みが、このススキ野原に巣をかけて暮らすカヤネズミ等、多くの生き物の命も支えていました。
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自然との共生が日々の暮らしに求められる現在、茅葺きの現代的な再評価を進めて来た齊木崇人、安藤邦廣、両先生の対談からは、新たな茅葺きの可能性を導き出してくれるのではないかと、個人的にもとても楽しみにしています。
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平成20年12月4日(木)10:00〜12:30
すずらんホール 大ホール (神戸市北区役所前)

【基調講演】「茅と民家と神戸の田園景観」
齊木崇人(神戸芸術工科大学学長)
/対談:安藤邦廣(筑波大学教授)

【パネルディスカッション】「なぜ今茅葺きなのか〜茅葺きの魅力について」
コーディネーター:齊木崇人(神戸芸術工科大学学長)
パネリスト:
上野弥智代(全国茅葺き民家保存活用ネットワーク協議会事務局)
岡田孝久(八多町自治協議会副会長)
磨家孝昭(神戸市教育委員会文化財課主査)
塩澤実(茅葺き職人/茅葺屋代表)

【内田家イベント】「茅葺き屋根の補修の見学や体験イベント」

※ハガキ、FAX、Eメールのいずれかで、件名「茅葺きシンポシンポジウム」とし、住所、氏名、電話番号、参加人数を記入して、下記まで申込の上当日直接お越し下さい。

{問合せ}
〒651-1114 神戸市北区鈴蘭台西町1-25-1 北区まちづくり推進課「茅葺き」係
TEL:(078)593-1111(代) FAX:(078)593-1166
Eメール:kitaku@office.city.kobe.jp

フライヤーのpdfはこちら
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1114 竣工

美山の山は紅葉の盛りを迎えつつあります。
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今年の紅葉は少し早いように思います。来月あたまのカヤカルまで保ってほしいのですが・・・

午後の日溜まりの中には、雪虫がふわふわと飛んでいました。
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今年は雪も早いのかなあ・・・茅刈り前のススキを押しつぶされないか心配です。

現場の周りの山も色づいています。
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でも、ナラ枯れで葉の無い木々が痛々しいです。
紅葉は来年の新緑が約束されているから、美しいのだと思います。来年の夏には枯れて赤くなるかも知れない木々の彩りは、眺めていて哀しくなります。

屋根の方は、軒を刈り落として揃えたら、足場を解体して掃除。
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そして、竣工しました。
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お知らせ 茅刈り体験会@美山

茅葺き現場体験会 カヤカル 参加者募集開始しました。

昨年、美山町「砂木の家」建設現場で行われたカヤマル'07@美山に続いて、地元砂木集落の主催で次回カヤマルの開催が決まりました。
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来年5月にこの村のお堂の屋根の一部を葺き替える際に、地下足袋持参での2泊3日の茅葺き体験会を行います。
それに先立ち12月6,7日に、葺き替えに使うための茅を村の人たち皆で刈り集めます。
そこで1泊2日の「茅刈り体験会 カヤカル'08@美山」を開催し参加者を募ります。

人と自然の共生する伝統的な暮らしの文化に触れ、山里での営みの喜びも苦労もリアルに体験できる機会です。

村のおっちゃんやおばちゃんたちと一緒に鎌を手に汗を流し、茅葺きが里山の大地としっかりと結ばれていることを実感してみてください。

期日:2008年12月6日(土)〜12月7日(日) 1泊2日

会場:京都府南丹市美山町高野地区 「砂木」集落内の茅場
(重要伝統的建造物群保存地区指定の茅葺き集落まで車で 30分)

詳細http://www.kayabuki-ya.net/plans.htm

問合せ:info@kayabuki-ya.net

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