帰国する前に8年振りのロンドンを歩くことにします。
ロジャーさんの家のあるイーストアングリア地方の玄関口になるのはセントパンクラス駅。この辺は大英博物館の裏手でロンドン大学のカレッジが集まり、文教地区というか上野みたいな雰囲気でロンドンの裏口っぽく居心地が良かったので、8年前にはUCLのドミトリーに転がり込んで街歩きのベースにしていました。
ところが、今回訪英してみるとユーロスターのターミナルがウォータールーからこのセントパンクラスに移転していて、界隈はすっかりロンドンの表玄関になっていました。
19世紀に建てられた天蓋のなかも国際駅のコンコースにされ、在来線のホームはえらい端っこの方に追いやられてしまいました。
でも、この立派な造りの駅舎にようやく相応しい役回りが廻って来たとも言えそうです。
なにしろセントパンクラス駅の三階から上は長らく利用されずに廃墟だったそうですから。
使われない建造物を出番が来るまで放っておけるというのは、何ともうらやましい話しです。日本では地震対策を思うとメンテナンスの行き届かない建物を、街中に置いておくなど考えられないことですから。
グリムショーがデザインした美しいウォータールー国際駅も、いつかユーロスターに代わる誰かに活用される日まで大事に放っておかれることでしょう。
古い建物を大切に使い続けるのがロンドンなら、新しいハイテクデザインのビルを建てるのもロンドン。
茅葺き職人なぞしていながら何ですが、僕はロイズオブロンドンは好きな建物の一つです。
この吹っ飛んだデザインのビルはしかし、一切装飾を削ぎ落として合理主義を極めた姿でもあります。それならば、茅葺きに限らず民家だって住む人の暮らしの中で合理性を突き詰めた姿です。
そして合理主義を形にするのは職人技。僕は溶接については全くの素人ですが、それでもこのステンレスの手摺は施工された溶接工さん誇りで輝いて見えます。
建築家が数学的に現したデザインを、現場で職人の手技が世の中に産み出すというのも、社会的な経験の積み重ねによって研ぎすまされた技を承けながら、最後には職人のセンスが一滴加えられる伝統建築と、僕の中では重なるものがあるのですが、いかがなものでしょうか。
セントパンクラス駅にせよテートモダンにせよ、古い建物をレストアする手法は大胆ですが、建物とそこで過ごした人々の歴史に対する敬意を感じることができます。
このドックランズの街並も、そうであればこそ人を引きつけ暮らす街として再生したのでしょう。
まあ、ロンドン五輪も決まって再開発の勢いには、次第に歯止めが利かなくなりつつある危うさも感じはしましたが。
建設途中のビルはどれも格好良く見えますけれどね。
出来上がった後も美しい街並を築く建物であってほしいものです。
だらだら続いたイギリスシリーズ、ようやく終わりです。
おつかれさまでした。