月別アーカイブ: 2007年12月

1227 里山公園の植栽

茅葺屋で屋根葺きを任せて頂いて、「カヤマル'06」として多くの方々に、材料の茅刈りから屋根の仕上げまで関わって頂いた「藍那かやぶき交流民家」。
丸2年経って良い感じに馴染んできました。
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早く来園者やカヤマルに参加して下さった皆さんに使って頂いて、末永く愛して頂けるように開園が待ち遠しいです。

ストローベイルハウスの現場からあいな亭の現場に向かう園路沿いには、造成前の雑木林から移植された木々の周りの除草作業で、ススキだけが選択して刈り残されています。
「里山公園には自然と協調する里山の暮らしのシンボルである茅葺き民家が不可欠で、里山公園であれば茅葺き民家の屋根には園内で刈り取られたススキが使われるべき」と、言い続けて活動して来たことも少しは汲んで頂けているのかな、と、勝手に喜んでみたりしています。
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こうして成長期にススキを刈り残して、冬に尾花を落としてから茅として刈り取ることを続ければ、やがて一面のススキ野原となることも期待できます。
そうなれば年に一度の茅刈りだけで、美しい原っぱの景観を維持できるようになりますから、公園の管理費用の節減にも繋がるはずです。

藍那に来てから大人数のシフトを組んだり、現場を移ったりと慌ただしく過ごして来ましたが、今年はこれでひとまず仕事納めとなりました。
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年が明ければ茅葺き体験会や、茅刈りも平行して始まりますます忙しくなりそうですが、しっかり充電して乗り切りたいと思います。

1226 ヤマダさんのヨシ

ヤマダさんは、かつて巨椋池から大阪湾まで広がっていた淀川水系の広大なヨシ原で代々ヨシを刈り取り、主にヨシズの材料として卸すことを生業として来られた家系の方です。
中国産に押されたヨシズに代わり、茅葺き屋根の材料として使われることが増えていたヨシですが、安定した需要とするには茅葺き職人の高齢化と後継者不足が問題でしたので、自ら茅葺きの修行もこなし職人としても活躍されています。
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そんなヤマダさんの山城萱工房で刈り取るヨシは大きく分けて2つ。
ひとつは上流の宇治川から琵琶湖にかけて見られる大きく育つヨシ。僕等は「伏見ヨシ」と呼んでいます。

もうひとつは河口に近い気水域の干潟に生えるヨシで、伏見ヨシに比べて長さも太さも半分にも至りません。
僕等は「大阪ヨシ」と呼んでいます。
伏見ヨシも大阪ヨシも、植物としては同一の種だそうです。しかし、茅材としてはもちろん全く別物です
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成長する期間は同じですから大きく育たない大阪ヨシの方が緻密で、細い分だけ屋根としても目の込んだものが葺けますから、角や軒といった細かい部分に重宝します。
伏見ヨシは太い分だけ粗くなりますが、それが幸いして水はけが良いのかこれはこれで長持ちする屋根になります。丈夫で屋根をしっかりと固めてくれるので、広い面積を葺いたりするのに向いています。

同じヨシが生えている場所でどうしてこれほどまで違った姿になるのでしょうか?
大阪ヨシは中にカニが入っていたりするくらいに、満潮時に海水に浸かる気水域に生えているので塩分のせいなのか?
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伏見ヨシは琵琶湖の富栄養化の影響を受けて育ち過ぎでしまっているのか?
常々疑問に思っているのですが、どうも元々特徴を異にする遺伝子群なのだという話しを耳にしました。
このあたり、詳しい方がおられたらぜひ教えて頂けないでしょうか。

そんな伏見ヨシと大阪ヨシを適所に使い分けながら、日々葺き上がっています。
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屋根も大きいですが、屋根屋も腕利きの職人とやる気のある手伝いさんを、集中して人数を揃えています。
おかげで今のところ、かなり良いペースで工程をこなすことができています。

1222 破風の取り付け

傷みの激しかった破風板を、大工さんが作り直して届けて下さいました。
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この破風板のつくりの細部にも、茅屋根を上手く葺き収めるための工夫が凝らしてあるのですが、古材を参考にして具合良く作って頂いていました。

破風板の取り付け方で、屋根の顔とも言える破風から棟にかけての形が決まってしまいます。
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寄せ棟の屋根下地に破風板を取り付けて、入母屋の形に据えるために付け足す下地を「コムネ(小棟)」と呼んでいます。
茅を葺いてしまえばやり直しはききませんから、慎重に位置を決めて抜かり無く固定して小棟を据えます。

1221 続・軒付け

軒先は屋根に降った雨水が全て流れ、風の影響も受けやすいので傷みやすい反面、意匠的に目につきやすい部分でもあり、丈夫さと繊細さが共に求められます。
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細く丈夫な淀川のヨシを使い、針金で一束ずつかきつけた上に押さえ竹で垂木に縫い止める、手間のかかる工程を経て軒の水切が付きました。

葺き並べる茅材は下地に対して角度を付けていますから、茅材の先端が屋根裏に突き刺さって行かないように、下地の表面に簀状に茅を並べておきます。
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ここで使うのは長くて太さもあり丈夫な、宇治川産のヨシです。

軒を付けて水切から2針(押さえ竹2回分)葺き上がりました。
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屋根全体のプロポーションを左右する、軒の大きさ、角度が決まりました。
それにしても、大きな屋根です。反対の角が霞んで見える・・・

1219 軒付け

丸太の垂木を整えて並べ固定した上に、カヤオイ(茅負い)の角材を取り付け、エツリ(横竹)を結束して屋根下地が完成しました。
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アリゴシから上は、大工さんが新しく作り直されている破風板の到着を待って。

最初に淀川河口域産のヨシをひとつかみ分ずつ藁縄でかきつけて止めて行きます。
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その上に均等な厚みに並べた稲藁を、竹で押さえて下地に針金で縫い止めます。

さらに半分に切ったススキの穂先を中心にして並べた上に、長く丈夫なススキを並べて一緒に竹で押さえて止めます。
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稲藁、切ったススキと短い材料を2回重ねたことで、次に葺き並べる茅は下地の勾配に対して角度を付けて屋根に置くことができるようになりました。

1213 下地組み

「あいな亭」と名付けられて里山公園に再生されるこの建物は、もともと神戸市内で住宅として使われていた茅葺き民家でした。学生時代に調査で解体される前にも訪ねたことがあるので、再会することができて感慨もひとしおです。
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乱雑に丸太を組んでいるだけのようにも見えますが、藁縄でしなやかに緊結していくとその強固なことは、百年以上に渡ってこの家を守って来た実績が、証明済みです。

丸太の位置や向きを1本ずつ手作業で整理しながら縄で結束して行くと、やがて美しい小屋組の構造が現れて来ます。
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剥き出しのままで見て美しく安心感も感じられるのは、力のかかり方に無理の無い構造体であればこそだと
思います

傷みの激しい部材は新しいものに交換しますが、新補材には古材との色合わせのために古色が塗られます
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しかし、茅葺き民家は建てられたときで完成するのではなく、草の育つ自然のリズムで暮らしながら育てて行くものです。
「造り続ける公園」という里山公園のコンセプトも、テーマパークのように里山の景観を展示するのではなく、人の暮らしの場としての里山を再生することを目指しているはずなので、建物にも作り物の色を塗らずとも、使いながら時間をかけて良い色を出して行けば良いのにとは思いますが・・・

などと煮え切らない想いも抱えつつ1日の仕事を終えて屋根を下りると、タングステン光に照らされた茅葺き屋根の小屋組は、色など関係なく驚くほどきれいだったりします。
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1212 ひと休み

ストローベイル(正確には稲藁ベイルですが)が運び込まれて来ました。
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ストローベイルハウスと言ってもベイルのブロックを積み上げて家にするのではなく、木造在来の柱梁構造に断熱壁材としてベイルを使用するようです。
日本の法規制を考えれば賢明な方策だと思いますし、そうでなければ茅葺き屋根を支えることもできないでしょうし。

屋根の格好も次第についてきて、建物の内装工事も本格化して来ましたが、クラブハウス棟の屋根葺きはここで一旦お休みにします。
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今回公園内に建てられる、もう一棟の茅葺き屋根を先に仕上げてしまいます。
限られた人員を振り分けるよりも、集中して一棟ずつ仕上げて行った方が効率が良いという判断です。

これは先日打ち合わせに赴いた際の写真。東日本なら珍しく無いサイズかもしれませんが、神戸では指折りだった大きな茅葺き民家を移築して来ています。
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鳶さんが素屋根をかけてしまう前なので、骨組みだけでも車などと比べて大きさを感じてもらえるのではないでしょうか。

こちらの現場は、ヤマダさんの山城萱工房が仕切ります。
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クラブハウス棟の一時撤収準備と平行して、既に下地組みが進められています。明日からは茅葺屋もこちらに本格的に合流します。

071208 丹後の笹葺き

「笹葺きパートナーズ」によって進められていた丹後での笹屋根の葺き替えが、4年越しで仕上がったということで納会にお呼ばれして来ました。
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山が生業の場で無くなった時代に、最も合理的な材料としてトタンが被せられた丹後の茅葺き民家ですが、里山の再生を地域の活性化に繋げる途を拓くことで、こうしてまた笹で葺くことが合理的だという社会の在り方を、選択肢の一つとして掲げることも充分可能になります。

アリゴシから下はまだ仕上げの刈込みが入っていないので、逆葺きで笹の葉を外に出して葺かれた笹屋根の特徴を見ることができます。
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水はけは良く無いかもしれませんが、このままの雰囲気も捨て難い気もします・・・
金属製の刃物が無い時代には、ヨシやススキを効率よく刈り集めることは無理だったと思うので、縄文、弥生の復元住居には、笹葺きを積極的に活用してもらいたいものです。

夜は一緒に笹葺きに携わって来た地元NPOの皆さんが、旬のブリでもてなして下さいました。
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刺身もブリしゃぶも絶品です!

お酒が進むと、始まる音楽。
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音楽に乗って、やがて踊り出す人たち。

1207 続・軒付け/しっかり野菜

軒先の水切となる部分は、良質なヨシを選んで一束ずつ針金でかきつけて止めます。
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さらに両角を付けた分だけ茅を葺き並べて押さえ竹で固定し、軒がしっかりと固まりました。

ここまでの工程で、屋根全体のプロポーションも決まります。
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軒がついたことでシートが風をはらむ危険も低減し、雨漏りの不安も軽くなりました。
特殊な屋根下地のことは気にかかりますが、とにかく最初の山場は越えました。

ところで、今回手伝いチームに参加して下さっているアルバイトの方に、有機栽培農家の方がおられます。
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現場で毎日出る茅くずを堆肥原料として引き取ってもらい、宿舎には立派な冬野菜をたくさん差し入れて下さいます。

おかげで今回の宿舎は、思いのほか食生活が充実しています。
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良い野菜を大勢で調理して、大勢で食べるのですから美味しく無いはずがありません。
茅葺き大家族生活。

1201 建設現場

毎日晴れて朝の冷え込みは堪えますが、朝日に透かして見る藍那の雑木林の紅葉は、盛りとなりいよいよ見事です。
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薪や椎茸のホダ木にするための伐採適期を過ぎて大きくなり過ぎたコナラやクヌギ、下草刈りが行われないため増えて来た照葉樹など、問題を抱えつつある藍那の雑木林であっても、日々移ろい行く自然の見せる表情には引き込まれるものがあります。

屋根では軒付けと平行して、下地の横竹の取り付けが進められています。
手伝いチームのアルバイトも、屋根に上がって「男結び」を実戦で覚えます。
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「ここからここまで、全部やり直し」「縄がもったいない、使い方を考えて」
体験会の「カヤマル」とは違い「お仕事」ですので、厳しい指摘が飛びますけれども、まだまだ時間は充分にありますから。
考えながら体を動かしていけば、身に付くことも少なくは無いでしょう。

屋根だけ見上げているとのどかな雰囲気の茅葺きですが、振り返ってみると今回の現場はこんな感じ。
敷地内には茅葺きを含めて3棟のクラブハウスの建設が進められているので、外構や設備工事も併せて様々な職種で大勢の職工さん達と一緒に仕事を進めています。
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普段茅葺きの現場では、パワーツールすらほとんど使わず茅を触るかさかさという音しかしないので、ユンボが這い回りダンプが行き交う現場の空気に慣れるのには、まだしばらく時間がかかりそうです。