月別アーカイブ: 2008年8月

0827 茅葺きに窓

北側の大間は軒まで刈って下りたので、続いて軒裏を刈り落とします。
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屋根の真ん中に開いている穴は、2階ロフトの天窓です。窓枠の取り付けなど作業が残っているので、足場を残しておきます。

北側の軒はロフトの地窓の庇を兼ねています。
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実験的に穿った窓ですが屋根の強度や採光、視界は考えて葺いていたつもりでした。が、仕上がってみるとやはりというか不都合も出て来たので、思い切って1尺ばかり切り上げてしまうことにします。
堆肥原料に利用されるとはいえもったいない話しではありますが・・・

奥まったところ、手間がかかりそうなところから先に仕上げて行くのは、どんな仕事にも共通する手順です。
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刈込む前と比べると、軒の形もかなり変わっています。
「前髪が重くてうっとうしい?じゃあ、ちょっと切って軽くしておきましょうか」と、いう感じ。

0822 アングル

砂木の家の施工記録写真を撮って下さっている、parammmさんが現場に来られました。
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屋根屋の作業の様子は、屋根の上から撮影した方が手元の様子が明らかになります。が、足場の無い上方からの撮影は、普通のカメラマンさんには無理な話。
ところが、地下足袋持参で棟に上がってしまうparammmさん。茅葺屋のヘルメットが似合い過ぎです。

屋根屋とはいえ自宅の棟に上がれる機会はそうそうありませんから、僕も棟に上がって砂木谷の眺めを楽しみます。
砂木の谷の集落の一番奥にある我が家の屋根からは、谷全体を見渡すことが出来ました。正面奥に谷の入り口の高台に在る、茅葺きのお堂が見えます。
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砂木に茅葺きのままで残るのは、拙宅とこのお堂ともう一軒だけ。でも、トタンを被っている家はもちろん、瓦葺きの家も全て茅葺き屋根を下ろして2階を上げたもの。目に入る全ての家が茅葺き民家からの改築です。
本当にちょっと前までは、茅葺きの家があたりまえだったのですね。

少し目線を上げると、ナラ枯れで赤茶けた木の目立つ山が・・・春の新緑、秋の紅葉、雪景色と、四季折々の姿で楽しませて来てくれた山だったのですが。
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里に近いこの山は薪山として雑木を伐られ続けることで、常に若々しい広葉樹が新陳代謝しているのが、ついこのあいだまで当たり前でした。薪がもう必要なくなり木を伐らなくなったことで、山が枯れて行くのも当たり前だとは僕にはどうしても思えません。
茅葺き民家が無くなって行くのを当たり前と思ってしまうことは、ナラ枯れのような放置された自然の荒廃と無関係ではありません。砂木の家での様々な試みが、茅葺き民家は失われ行くものだという決めつけを、少し変えることになってくれたらと願っています。

0821 藁スサ

お盆が明けたばかりだというのに、秋雨のような冷たい雨に度々降られます。
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雨漏りの心配は無いとはいえ、雨の日の刈込み作業は捗らない上に仕上がりも悪くなるので、できれば避けたいところです。
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そこで雨のかからない軒裏の刈込みを進めておきます。
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軒裏には茅を屋根に置く角度を稼ぐために稲ワラが使われています。この稲ワラの刈りくずはとっておいて、壁土に練り込むスサに使います。
ススキやヨシといった他の茅材の刈りくずは堆肥の原料に。茅葺き屋根はゴミを出さないゼロエミッションを、とっくに実現してる建築技術です。

0820 集合住宅

お盆が明けて作業再開。いよいよ仕上げの刈込みが始まります。
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屋根を葺きはじめて丸一年。長かったです。仕事の合間に作業を進めることが、これほど手間取ることになるとは。本業の傍らで自宅をセルフビルドされている方々の偉大さを思い知らされました。

ストロー状のヨシの並ぶ茅葺き屋根は、穴の中に巣を作るハチたちにいつも大好評。狩人蜂(種類不詳)が幼虫のエサにするバッタをせっせと運び込んでいます。
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ただ彼等は有視界飛行で飛んでいるらしいので、これから仕上げのハサミをかけて屋根表面の地形が変わってしまうと、つくりかけの自分の巣の位置が判らなくなってしまうようです。
ハサミ仕上げの最中にエサを抱えたままうろうろしているハチを見かけると、いつも申し訳ない気持ちになりますが、ハチのお母さんたちのためにも、茅葺き屋根は葺いたらさっさと仕上げてしまわなければならないようです。

家の裏庭にミョウガが顔を出す季節になりました。採るのは鹿と競争です。
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クボ料理長は美山より更に山奥へと旅立って行ってしまいましたが、丁稚サガラが天婦羅にしてくれました。茅葺屋のスタッフはみんな料理上手でありがたいです。摘みたては香りも歯触りも最高!

0813 棟上げ/壁小舞

棟が上がりました。
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小さい家なのに、棟飾りが7つも載ってしまいました。屋根の勾配が急過ぎて、棟が長くなってしまったからです。
(大工さんの)棟上げの時慌ただしかったとはいえ・・・まあ、屋根屋でも新築に携わる機会は貴重だし、お施主さんの家ではなく自宅で失敗を経験できて良かったと思います。

棟飾りのウマノリはトタンを被せて必要なくなったお宅から安く譲って頂いたり、形が悪くお施主さんのところでは使えないものなど、寄せ集めを切ったり削ったりして形を揃えて使っています。
半端物だけれども、安全のためにも栗材にはこだわります。

かつてはその重さで棟を押さえていたウマノリですが、現在では針金で屋根裏の下地丸太に綴じて締め上げています。
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水を吸うワラ縄で屋根を貫通して綴じては雨が漏ってしまいます。雨の伝わり難い針金が登場したことで、意匠は同じでも機能としては、ただ置いてあるだけから挟んで固定するかたちに劇的な進化が隠されています。

棟が上がり雨漏りの心配が完全に無くなったので、内装の工事も本格的に始まりました。
左官屋さんが来られて壁の下地小舞をかいて行かれました。
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本当は小舞かきも我々でやりたかったのですが、結局時間を作ることが出来ませんでした。ただし、小舞にした割竹は、昨年自分たちで伐り出して割って用意していたものです。
すかすかの小舞とはいえ壁が出来ると、柱だけだったときより屋内に風が流れるようになりました。ちょっと不思議な気もしますが、適切な入り口と出口を用意してやった方が、吹きさらしよりも空気が動くということでしょう。

0809 ため池と竪穴住居

兵庫県立考古博物館ボランティアにより取り組まれている弥生時代の住居の復元に、ちょこっと顔を出して来ました。
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博物館のある東播地域は、日本有数の40,000 ! を超えるため池が独特の景観と自然を育んできました。
博物館のエントランスも今や希少種になってしまったオニバスが大きな葉を広げる池で、たくさんのトンボが飛び交っていました。

竪穴式住居の復元はボランティアの市民や学生等によって、全く業者の手を借りずに進められています。
材料の丸太や竹は近くの雑木林から伐り出して来たもの。葺く茅はため池に生えるヨシ。
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約2000年前、稲作が行われるようになった弥生時代には、すでにため池が造られていたといわれています。
ため池をめぐる人の営みと自然との関わりが、茅葺きの竪穴住居を介して甦って行けば素晴らしいことだと思います。

0808 棟を積む

やっとこさ、棟を積む日が来ました。
棟積みの工程も何度かご紹介していますが、何度でも繰り返します。よろしければご覧下さい。
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一番上まで葺き上がった茅を押さえる竹は、屋根裏のあらかじめ高さと水平を揃えた下地竹(セメダケと呼びます)に縫い止めます。棟の基礎となるこの竹の、前後左右の高さが揃っていることが安定した棟にするために肝要です。

棟と水平方向に茅を積み上げ、押さえ竹から取った針金で束ねて固定します。
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さらに親亀の上に子亀が乗るように、順に小さな束を積んで行きます。
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こうして屋根勾配なりの棟を積むのですが、美山の茅屋根は勾配そのものが急なので尖った棟になります。

基礎となっている押さえ竹を養生する意味で、半分に切った茅の穂先の方を並べて止めます。
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棟には杉皮を被せて雨から養生するので、ここに用いるのは軒裏同様に稲ワラを使っていました。
最近では屋根の耐久性を増すために、我々の仕事では雨のかかるところには茅の穂先も使わない傾向にあるので、ワラに代わって穂先はこういう箇所に活用しています。

0801 風景

真夏とはいえ夜明けの山里の空気はひんやりと肌寒い程です。
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茅バイトのアサヤンさんの入れてくれる、本格チャイでからだを目覚めさせて屋根に上がります。

ようやく棟近くまで上がって来ました。水平が保たれているかどうか、離れたところから見て確認します。
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新築なので、ご近所の家並に馴染んでいるかどうかも気になるところです。

人と自然の共生する、先人の営みの積み重ねよって生まれた里山の風景。
そこに相応しい1ページを重ねることが出来るかどうか。
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家の向きなどもご近所の建て方に倣っています。集落の人たちの体験話を聞いていると、やはりなるほどと思わせられることが多々ありますので。

そうした試行錯誤も繰り返しながら、まもなく棟を積むところまで葺き上がります。
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まあ、なかなか竣工しないのは、屋根屋の仕事が進まないからなのですけれども。