茅葺き現場日誌@小松旧米谷家」カテゴリーアーカイブ

0605 竣工

雨上がりの池に睡蓮の花が咲きました。
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富山の現場からスギヤマさん達にも応援に駆けつけてもらって仕上げに入ります。

差し茅で棟に馴染ませたら一気に刈り落として完成です。
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後半雨にたたられたりしましたが、おかげさまで何とか工期内に仕上げることができました。
泊まりの仕事は経費の計算など胃の痛くなることも多いのですが、知らない土地に縁が出来るのは楽しいことでもあります。今回も新たな人や屋根との出会いに恵まれました。

0603 縄の手繰り方(ロープワーク)

また雨降りですが、竣工間近で待機もしていられないので、富山県のスギヤマさんの現場まで手伝いに来ました。
こちらの現場は素屋根で覆われているので雨の日に人材を振り向けておいて、雨が上がったら今度は小松に来てもらおうという魂胆です。
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北陸には竹が少ないからでしょうか。太い丸太同士を縄で括った屋根下地なので、茅葺き屋根の小屋組の構造が良くわかると思います。

茅を屋根に固定する押さえ竹を、屋根裏のレン(垂木)に縫い付けるのも針金ではなく縄を使っています。
針金だとトックリ結びで締めることができますが、滑りの悪い縄はそうはいかないので、男結びでとめるためにまず2重巻きにする必要があります。
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以下、その方法です。

まず、屋根用の針に縄を通してレンの際に差し、屋根裏の人に掛け替えてもらって縄をレンに巻くのは針金と同じ。
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一回巻いただけだの縄を引っ張っても押さえ竹を締めつけることができないので、2回巻きにします。

長い方の縄のヨリを緩めて、短い方の縄の先を挟みます。
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短い方の縄を少しずつ引っ張ると、2本の縄がレンに向かって屋根に吸い込まれて行くことになります。
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この時、縄が絡まると後で上手く締まらないので、左手を添えて2本の縄が平行になるようにしてやります。

引っ張り続けると挟んだ縄の先がレンを廻って戻って来ます。
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挟んでいた短い縄を抜けば、レンに縄を2重巻きに出来ました。

2本の縄それぞれを右手と左手に持って引っ張りつつ、竹を足で踏んで締め付けます
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締め付けたまま男結びで止めてしまいます。
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僕の修業時代には美山でも縄だけを使っていました。懐かしいです。
価格的に針金の方がはるかに安価で、施工性も良いので最近では針金ばかりになっています。
冬の寒い時期にワラ縄を使うと、ワラに皮脂を奪われてあかぎれになったりしましたが、それでも個人的には縄の方が好きです。

0531 ゴモクの行方

また、雨です。
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降ったり止んだり・・・

スギゴケは喜んでいるみたいですけれど。
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あまり雨に降られると屋根屋の懐は干上がってしまいます。
毎年この季節に同じことをぼやいていますが。遠征泊まり込みだと尚辛いです。

それでも止み間、晴れ間に仕事を進めて、ついに下げ葺きは完了。
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あとは棟に合わせて差し茅で馴染ませます。

ところでこの現場で発生した古茅などの茅くずは、I さんが用意して下さった林の中の空き地に積んでおいたのですが、今日の夕方近所のおじさん達がその一部を取りに来られました。
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菊栽培の土壌として活用されるそうです。きれいに菊の花を咲かせるために、綿密な計画のもと液肥を与える菊栽培では、茅くずが最適なのだそうです。
こうして茅くずが建築廃材になるのではなく、茅葺きの副産物として喜ばれるのはこちらとしても嬉しいことです。

0527 菖蒲(受け継ぐ)

久し振りの快晴、雨除けのシートは取っ払ってしまいました。
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葺きあがって頭がつかえるようになれば、いずれ外さなければならないものですし。

現場の周りでは菖蒲の花が盛りを迎えています。
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小満を過ぎて初夏の日差しに伸びきった緑の映える季節です。

菖蒲の他にもたくさんの花々に彩られています。
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紫欄に九輪草・・・手入れをされているのは、2棟の茅葺き民家の面倒も見ておられる I さんです。

昼休憩に弁当を使うのに囲炉裏端をお借りしながら、茅葺き民家と植物と過ごす日々の話しを聞かせて頂いています。
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「暮らした人たちの想いが詰まった建物、移築された後も変わらず育てて行きたい」「花は咲かすのではなく、咲いてくれるのです」
先人と自然の営みへの敬意に満ちた言葉が胸に沁みます。

0524 本誓寺

やや湿っぽいものの何とか保っていた天気が崩れ、本日は雨休み。
石川県萱葺き文化研究会のSさん、Kさんのご案内で、能登の阿岸本誓寺を拝観に足を延ばして来ました。
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山形県の出羽三山神社三神合祭殿、岩手県の正法寺本堂と並んで、誰が言い出したか「日本三大茅葺き屋根」に数えられる大きな建物で、車の中から既に周りの建物とスケールの異なる偉容を望むことができました。

近づいてみるとあらためてその大きさに圧倒されます。
能登半島地震でも本堂に大きな被害は無かったそうで、大工さんの仕事の確かさと、茅葺き屋根の地震への強さはさすがのものです。
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スギヤマさんは前回の葺き替えにも参加されたそうですが、これだけの大きな屋根だと余程気合いを入れないと呑まれてしまいそうで、大変な現場だったのでは無いでしょうか。

散々楽しんで帰ってみると、雨除けのシートはやはり予想通りの姿に。
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遊んだ後はその分も働かなければならないということですね。

0520 越前の茅葺き屋根

越前の茅葺き屋根は、見慣れた関西のそれとは当然色々と違っています。
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古屋根を解体して驚いたのは、ススキが茅刈りした束のままで使われていたこと。
「茅で屋根を葺く」方法に唯一の正解はありません。とはいえ、僕にとって屋根屋修行の最初の頃は、丸い茅束を屋根の上でいかに平らに均等に伸ばすかに費やされていたので、いささか驚かされました。

外見的に最も特徴的なのは、「こうがい棟」と呼ばれるこの棟の収まり。
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棟が風で飛ばされたりしないように、屋根から突き出た丸太に縛り付けておくという何とも豪快な収め方で、白川郷なども含めた能越地方の茅葺き屋根の特色です。

現場のお隣には白山麓から移築された重文の民家も建っています。最近では文化財でも形だけなぞっている茅葺き屋根もある中で、こちらはオリジナルの材料と工法に徹底的にこだわっていて、こうがい棟の様子がより良く解ります。
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茅を並べた上に丸太をどん!と置いて、屋根の途中から突き出た丸太(表裏は繋がった1本の丸太で、屋根を貫通していることが多いです。だからかんざしに見立ててこうがい棟)に、落ちないように縛り付けておきます。この屋根の場合は縛り付けるのも縄ではなく移築前から使われていたネソ

小屋裏の丸太同士を結束しているのも、やはり縄ではなくネソ。
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水田の多くはなかった山村では、生活道具の素材や飼料として貴重なワラの縄より、山で採れるマンサクの若木の方が使いやすい材料だったのでしょうか。

茅葺きの下屋の庇が石置き屋根というのも始めて見ました。
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こちらは風の強い沿岸部の特色なのでしょうか。
茅葺き民家の豊かな地域性には、風土の特色を活かした先人達の暮らしが透けて見えるようで、興味が尽きません。

0518 茅と囲炉裏の複雑な関係

スギヤマさんの張ってくれた雨除けのシートは、実際に雨が降ったり風が吹いたりすると怖いことになりそうですが、とにかく日陰で涼しいので深く考えないことにします。
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傷みの酷かった軒先の表側の茅を取り除いたあと、軒裏になる茅を整えて新しい軒先を葺けるようにします。
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この家は屋根の軒に近い部分に化粧天井が貼ってあって、人が屋根裏に入って針受けすることができません。

屋根に外から手を突っ込んで押さえ竹を固定する針金をとるために、道具を屋根に差し込んだ途端、屋根の中から「□キ□▲ィ!!△☆▽▽キ■▽!!!」と、形容し難い叫び声と何かが走り回る音が。
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隙間を開けて覗き込んでみると・・・屋根用の縫い針の先に動物の顔が見えるのがおわかりでしょうか?

屋根裏に上がったヨネクラくんは、その動物と鉢合わせ。ばっちり写真に撮って来てくれました。
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茅葺き屋根と化粧天井の隙間にイタチの夫婦が住んでいたようです。

ところで、「囲炉裏を使わなくなって燻さないので、茅葺き屋根が昔ほど長持ちしない」と良く言われますが本当でしょうか? どんなに燻しても刈り旬の悪い竹は虫に喰われてしまい煤竹にはなりません。茅は違うと言うのも妙な気がします。
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しかし、統計はまとめていないものの、家の中で火を使っていた頃に比べて、茅葺き屋根の葺き替え周期が短くなっているのはどうやら事実のようです。
屋根屋がへたくそになってしまったのでなければ、僕は屋根裏の換気状態に原因があると感じています。

囲炉裏にせよクドにせよ、家の中で火を使うと煙たくて居られないので、昔の家は夏よりも何よりも排気を旨として建てられて隙間だらけでした。火を使わなくなれば冬の隙間風は避けたくなるのが当然です。アルミサッシを入れ、天井を吊り、クロスを張り巡らせれば暖房は多少効くようになりますが、吹き抜けの土間やダイドコだったころに比べれば、屋根裏の空気は澱みます。

さらに煙たくなくなると、屋根裏にイタチやタヌキが住み着きスズメバチが巣をかけるようになります。家の中を動物に歩き回られるのを嫌って隙間を塞ぐと、屋根裏の空気はますます澱んでしまいます。
いくら茅葺き屋根に通気性があると言っても、また破風や煙出がついていていも、新鮮な空気が下から入って来なければ、換気効率は悪くなることでしょう。その結果屋根が蒸れて早く傷むのではないかと思うのです。

ですから「囲炉裏を使わないから茅葺きが傷みやすい」というのは間違いではないでしょうが、「囲炉裏を使わず煤がつかないから傷みやすい」という単純なものではなく、「囲炉裏を使わなくなるような生活様式の変化」に伴う様々な要因に「茅葺き民家の使いこなし方が追いついていないので屋根が傷む」といったところではないでしょうか。

茅葺きの実験住宅「砂木の家」では、このあたりを色々と試してみようと思っています。

0517 開腹手術(屋根を)

先に下見を済ませておいた、「癒しの森」という公園に移築された民家の屋根を修繕に、石川県小松市にやって来ました。
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元々は広い砂浜と飛砂防止のクロマツ林がどこまでも続く、石川県南部の海岸部に建てられていた農家だそうです。

限られた予算枠の中で、差し茅による修繕をとのことでしたが、下見に来た時から軒周りなどに不自然な傷み方をしている箇所があるのが気になっていました。
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茅葺き屋根は本来なら表面だけを雨水が転がるように流れ落ちて行くので、葺かれた茅は屋根表面に少しずつ出ている部分だけが順に朽ちて、屋根全体が均等に薄くなって行くのが理想です。
葺き方や材料にムラがあったりすると、そこだけ傷みが進んで溝になってしまったりします。この屋根には溝は無いのですが、茅材がススキのかたちもわかるほどあらわになっているのは不自然です。

差し茅は表面から減った分だけ葺き足すような工法なので、屋根の内部に異常のある疑いを抱えたままでは行えません。
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思い切って傷んだ箇所の古屋根を解体してみると、何と表面は茅の形を保っているのに、内部は完全に土のかたまりになってしまっていました。
雨が茅屋根の表面を流れずに、染み込んでしまっていたためです。
材料の茅材が悪かったり、葺き方に無理があったり、カブトムシの幼虫が屋根の茅を食べてしまったりすると、このようなことが起きることがあります。

傷んだ部分は全て撤去して、古屋根の材を活用しつつ新しい茅材で屋根表面を作り直す、「下げ葺き」という工法を採用することにしました。
差し茅のように材料を節約しながら、葺き替えのように新しい屋根をつくれるのが特徴です。
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これからの季節「弁当忘れても傘忘れるな」な越前の天気に配慮して、元請けのスギヤマさんがシートを張ってくれました。
おかげで屋根の上にもかかわらず、日陰で涼しい思いができます。

0420 白山麓の街

飛騨かやぶきのスギヤマさんの手配された仕事を請け負うために、越前の小松まで下見にやって来ました。
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北陸自動車道は何度も通っていますが、いつも白山は雲に隠れて見ることは出来ませんでした。
しかしこの日は快晴!早苗田の遥かに残雪を頂いた霊峰が青空に映えています。

こちらがその物件、「癒しの森」公園内に移築された旧米谷家住宅。
一見関西で見慣れた入母屋づくりの茅葺き屋根と似ていますが、よく見ると棟のかたち、破風のかたち、角や軒のかたち、細部は随分と違っています。
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傷みの進んだ片側の大間を限られた予算で修復するという、先のかやぶき音楽堂と同様の依頼ですが、かたちが違うというのは中の構造も葺き方も違うということですから、一筋縄では行きそうにありません。

さて、癒しの森の中にはこんな茅葺きの建物もありました。
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世界的な豪雪地帯である白山麓で、夏の間だけ山腹の耕作地に泊まり込むための「出造り小屋」だそうです。
こういう職人の手によらない、百姓の百の技の一つによるつくりの茅葺きにとても惹かれてしまいます。