かや葺きかさね着「キセカヤ」」カテゴリーアーカイブ

0717 キセカヤ+ヨシズ

てっぺんまで苫を並べたら、棟の隙間を塞ぎます。
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基本的には「稲架掛け(はさかけ)」するのと同じ収まり。茅葺き屋根の見せ場でもある棟仕舞いも、苫葺きではあっさり済ませます。

薄くて軽い苫葺きの屋根。屋根の外断熱としては屋上緑化が注目されていますが、遥かに重量の軽いキセカヤなら、建物にそのための補強を必要としません。つまり遥かに安価にできます。と、いうことは工事そのものが環境へ与える負荷も小さくてすみます。
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こんなに薄いのなら「ヨシズ敷いとけば良いのでは?」と思われるかもしれませんが、こんなに薄くても屋根として葺かれていますから、雨を漏らしません。
ヨシズだと雨を通して濡らしたあと、日陰にして乾き難くしてしまいます。瓦葺きでももちろん、RCの屋上に設置した場合など、既存の建物を傷めてしまうことになりかねません。苫葺きなら建物本来の屋根も守ります。

軒を刈り揃えて、瓦屋根との隙間にヨシズを編み込んで、完成。
苫は下地の竹に吊ってあるだけなので、強い風に葺かれても孕まずに、たなびいて力を逃がします。万一飛ばされても藁が散らかるだけ。
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今回は切り妻の瓦屋根と周辺の環境に似合うように、落ち着いたデザインを心がけましたが、「着せる」建物に合わせて様々な姿に仕立てることも可能です。

ヨシズは屋根ではなく開口部に使わないと。ヤマダさんの伏見産ヨシの立て簾と、十三産ヨシの簾をしつらえて、縄文部屋モノノケ仕様が出来上がりました。
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どのくらい快適になったのか?数値データは現在武庫川女子大学の学生さんが鋭意解析中ですが、この夏の猛暑をここで過ごしたサガラに、ぜひ直接に住み心地を尋ねてみて下さい。

12月5日に予定しておりました、カヤコヤ'10@淡河/神戸は、諸般の事情により中止せざるを得なくなりました。

皆様にご迷惑をおかけしてしまったことを深く反省し、教訓として、今後参加者の皆様により安心して楽しんで頂ける茅葺き体験会の開催を目指して行く所存です。

このたびは私共の準備不足からご迷惑をおかけしてしまい。本当に申し訳ありません。
重ねてお詫び申し上げます。

0716 苫葺き

二階の瓦屋根をそのままに、その上に茅葺きの下地を組んで行きます。
既存の建物に負荷をかけないように、なるべく軽くしたいので、杉丸太や孟宗竹を使わず、真竹だけで組んで行きます。
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つまり、釘や金物は使えないということ。滑る竹を縄で組み上げて行くには、がっちり固定するのではなく、柔らかく力を分散させるイメージが大切です。

万一の飛来落下防止にワイヤーは取ってありますが、竹下地は瓦屋根の上に帽子のように被せてあるだけ。
建築の屋根を葺き変える改修ではなく、工作物の設置なので、建築基準法で定めるところの届けは必要ありません。
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上の方にはみ出している垂木の先は節のところで切って除きます。今は飾りみたいですけれども。

出来上がった下地に、用意しておいた苫を広げて行きます。茅葺き屋根を葺くときは、屋根の外側から葺く場所の下に立ち作業しますが、苫葺きは屋根の内側から身を乗り出し、葺く場所の上に立ち作業します。
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「葺く」というより「吊る」感じ。
今回は既存の瓦屋根と、茅葺き下地の間の隙間が小さかったので、下向きの作業は腰にこたえたようですが、屋根表面に足場を設置する必要も無いし、外側で作業するより安全です。

下地さえ出来ていれば、これだけの屋根の片側葺くのに、2人で半日かかりません。
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薄い苫葺き屋根には耐久性はありませんが、葺き替えるのはとても簡単です。毎年生えてくる草を編んで苫をつくり、傷んだところだけ葺き替えて、古くなった苫は畑の肥料に。ゴミにならずに潔く地面に還ります。

0624 苫編み

木造瓦葺きの日本家屋、でもその二階は日本の夏に快適な場所とはいえません。
断熱材入れて、気密性を高めて、エアコンの効きを良くして、屋根に太陽電池パネルを設置する、という方法もありますが、太陽電池でエアコンの電気代を賄うよりも、茅葺きにしてエアコン不要にした方が合理的だと思いませんか?
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夏に涼しく快適な茅葺き屋根のやさしさを、田舎の茅葺き民家に限らず暮らしに取り入れる方法はないものかと模索しておりましたが、このほど「キセカヤ」というものを考案して、試しに縄文部屋こと淡河茅葺き屋根保存会くさかんむり秘密基地もとい事務所に施工してみました。

2階や屋根裏部屋の籠ったような暑さを除くため、瓦の温度を下げて輻射熱を防ぐ装置として、薄くても抜群の遮熱性能を発揮する茅葺きの特性を活用します。
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まずは、稲ワラを元末揃えて編んで「苫(とま)」をたくさんつくります。ちょっとしたコツはありますが、きちんと習えば誰でもきれいな苫を編むことは出来ます。
何より高い屋根の上に登らなくても良いので、子供からお年寄りまで皆で手分けしてつくれるのが良いところ。

炎天下での作業は厳しいので、出来上がった苫を早速広げて陰をつくりました。
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その涼しいこと!タープのつくる日陰なんかとはまるで違います。これはかなり期待できそうです。

苫葺きのこと

つい60年程前まで、日本では市街地を除けば屋根は茅で葺くのが当たり前でした。私たち職人が普段手がけさせてもらっている、民家の母屋や寺社以外の、水屋や家畜小屋や炭焼き小屋の屋根はどのように葺かれていたのでしょうか?
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わざわざ職人を呼ぶような場面でなくとも、濡れては困るものには必ず屋根をかけていたはずです。
それはこの堆肥小屋のような、軽くて薄い「苫葺き(とまぶき)」という屋根だったかもしれません。

「苫」とはワラやスゲなどの草を、元末を揃えて編んだものです。元の方を棟側にして、軒から棟へと重ねながら屋根の上に広げると、逆葺きの茅葺き屋根ができあがります。
ちなみに元末を交互に草を編んだものは「筵(むしろ)」や「簾(す)」。
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あらかじめ編んでおいたものを巻いて束ねておけば、これをさっと広げて仮止めするだけで雨露が凌げる優れものです。耐久性はありませんが、手軽に雨養生するにはうってつけな葺き方です。

苫葺きは高度な職人技ではありませんが、かつては誰でも当たり前に出来たことでも、一旦失われてしまうと取り戻すのは容易ではありません。運良く記録に残され、かたちをなぞることが出来ても、経験を重ねて蓄積されたコツというのは、共に手を動かさなければ共有できないものです。
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難しい屋根を葺く技術は、文化財としてかたちとともに遺されますが、かたちに残らない、茅葺きとともにある暮らしの記憶に触れたいと、職人の手に依らない茅葺きを探し続けていました。
しかし、苫葺きはトタンやビニールシートに取って代わられていて、職人不要の茅葺きはこの収穫後の稲藁を養生するワラヅトくらいしか見付けられないでいました。

そんな時に、偶然出会って衝撃を受けたのがこれです。
苫葺きの大きな小屋。茅葺屋が活動拠点を置く神戸と美山を結ぶ道中の、三田のとある田んぼに冬のあいだだけ現れていました。
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干し草の発酵熱を利用してウドを栽培する、ウド小屋
いつもと違う道を、めずらしく昼間に走って、たまたま出会うことが出来ました。

その頃僕は独立したばかりで、日常=出稼ぎの「渡りの職人」として各地を巡っていましたが、毎年晩秋には三田の田んぼに通い、ウド小屋の葺き方を勉強させて頂きました。
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と、いってもご夫婦による完成されたチームワークの前に、ほとんどお手伝いすることも出来ず眺めているばかりの日が多かったのですが、一緒に苫を編ませてもらったり、一服どきに棟収めの手解きをして頂いたりしていました。

中から見上げると光がこぼれるほど薄い苫葺きのウド小屋。完全防水ではありませんが、強い雨に降られても、中は乾いています。
現在ではウド小屋もビニールハウスと電気ヒーターで栽培することが殆どになっていますが、「雨を防ぐのに蒸れない」「風を遮るけれども日射の熱も遮る」等の、ビニールシートには無い苫葺きの機能故に、こだわりを持った農家さんによって使われ続けていたことで出会うことが出来ました。
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ウド小屋は現役の苫葺きというだけではない、暮らしの中の茅葺きとして素晴らしいストーリーをたくさん見せてくれたのですが、それらについてはまた、あらためてご報告します。

苫葺きはウド小屋に適していただけではありません。強い風が吹いてもたなびいて受け流すため、ビニールシートのように孕んで大きな音を立てたり、トタンのように飛ばされて人に怪我をさせたりすることが無いという、街中で使うにあたって適した性能も持っています。

茅葺き屋根を昔話の中に留めず、苫葺きの特性を活かして現代の暮らしの中に取り入れる、新しい茅葺き「キセカヤ」をご提案します。
見学会+体験会 カヤコヤ'10@淡河/神戸にて、見て、触って、葺いて、感じてみて下さい。