月別アーカイブ: 2007年8月

0829 刈込み

破風のてっぺんには、蜂が良く巣をかけます。キイロスズメバチと違ってアシナガバチなら、屋根を葺くときの振動で怒ったりはしないので、なるべくそっとしておきたかったのですが、茅材に直接巣を吊っていたため、古屋根をめくる際に仕方なく切り落としてしまっていました。
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が、棟まで葺き上がってくると、今度は木部にきちんと再建されていました。よかった。
アシナガバチは晩秋に巣を解散したあと、冬眠のために茅葺き屋根に潜り込んでいるのを、古屋根解体の時に知らずに茅ごと掴んで刺されることがありますが、彼等が巣をかけると、庭木や畑の芋虫や青虫をてきめんに減らしてくれるので、なるべく仲良くして行きたいものです。

棟が上がったら刈込み仕上げに入ります。
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表側を仕上げたら、下半分に設置していた足場丸太と梯子のあとも手直ししておきます、
屋根を傷めないように気をつけて歩いてはいますが、それでも無傷という訳にはいきませんので。

表が仕上がったら裏側も。
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今年の夏は気温以上に日本の夏とは思えない乾燥した空気が印象的で、お盆までは暑いというより痛い感じでした。屋根の上では刺すような日差しが堪えましたが、夜にはまるで冬の夜空のような満天の星を楽しむことができました。 でもやはり異常ですよね。蒸し暑くない夏なんて。
お盆が明けると日差しは弱まりましたが、湿度が戻ってもったりと重い「熱さ」に絡まれて汗だくです。毎日Tシャツ5枚ずつ洗濯しています。

070828 デザインの大学とは?

シオザワの母校である神戸芸術工科大学で、かつて学生を指導しながら一緒に制作した茅葺きの方丈庵が、新校舎建設の用地にかかりるということで、取り壊される前に解体しに行って来ました。
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在籍中の茅刈り活動が現在の茅葺屋の礎となったように、神戸芸術工科大学では神戸市が全国有数の茅葺きが残る地域であることを明らかにし、さらにそれらをサスティナブル建築、環境共生住宅、生態系保全、都市と農村との交流機会など、環境デザインの視点から評価する研究活動が活発に行われて来ました。

この方丈庵でも実際に茅屋根葺きを体験することで、茅刈りに参加する学生の技術とモチベーションの高まりを期待していました。もちろん、身近に茅葺きの建物があることで、建築として評価する機会としても活用していってほしかったのですが・・・
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めくりながら再使用可能な茅はまとめて、畑行きの茅とは分けてはおきました。それらは研究室のメンバーが保管場所まで運んでくれましたが、再利用できない茅は畑に行くあてが無く産廃扱いとなるようです。
解体に際して学部の学生が誰も来なかったのは寂しいですね。夏休み中ということもあるでしょうが。
学内でも茅刈りなど行われるようになって、多少なりとも茅が刈り貯められていたら、別の場所でまた葺き直すということも検討できたのですけれども。

この建物がそこまで学生に愛され無かったということについて、滋賀県立大立命館大学での、独創的な切り口での茅葺きに関わる活発な活動を見て来たこともあり、もっと学生の興味を引き出すような方法があったかもしれないと、責任も感じています。
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同時に「デザインの大学」であるはずの母校が、敷地内の茅葺きや雑木林といった資産を活かせず(デザインできず)、ファッションとしての建築やCGアートなどに偏りつつあるように思えて心配です。僕はこの大学で「茅葺きが環境デザインである」ことを学んだのですが、現役の学生がそのような薫陶を受けられそうな空気は、随分と稀薄になっているように感じました。
茅葺きの方丈と並んで建っていた、かつての在校生が版築工法を用いて建てた、土の実験住宅も取り壊されました。草や土の小屋が建ち並ぶ様は、現代の建築デザインの最先端モデル展示場のようで壮観だっただけに、仕方の無いこととはいえ残念です。

0826 棟収め

棟を積むときはいつも、両端を積むものは工程的に真ん中に追われて、忙しく写真を撮る暇も無いので、美山での棟の積み方を順を追って説明することは出来ずにおりました。
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今回現場に人数が少なく、1工程毎に休憩が入るようなペースになってしまったので、図らずも詳しく写真を残すことができました。

まず、最後に葺き並べた茅を止めている表裏のオシボコ(押さえ竹)の間に、茅材を90度回して桁方向に積み上げ、オシボコからとった針金で締め上げカマボコ型に固めます。
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このとき、あらかじめ葺き上げた表裏の屋根の高さが揃っていることを、確認しておくことが大切です。

一つ目のカマボコの上にさらに茅を積んで、固定する針金は下のカマボコを締め上げた針金からとります。
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少しずつ小さなカマボコにして行くことで、棟の断面を葺き上げて来た茅屋根の勾配に合わせた三角にして行きます。
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棟を雨から養生する仕上げの杉皮の長さは7尺ですので、3尺5寸の杉皮でちょうど収まる高さまで、繰り返し積み上げて行きます。
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棟の断面も段々と三角になって来ました。3尺5寸できれいな三角になるように、積み上げて行くカマボコの大きさを調整して行くことが必要です。
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最後のオシボコは葺き並べた茅を止めるために、当然茅の端ではなく途中で縫い止められています。
そのため茅屋根の表面と、オシボコからの針金で固定された積まれた棟のあいだには段差が生じていますから、それを埋めるように短い材料を並べて止めます。
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杉皮で押さえて隙間が出来ないように、普通柔らかめの材料を使います。稲ワラを用いることが多いのですが、今回は半分に切ったススキの穂先の方(シンと呼びます)を使いました。

両端はシンがこぼれないように、それをあらかじめ杉皮で巻いたマキワラを固定しておきます。
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マキワラもあまり端に乗せれば転がり落ちてしまうので、端から1尺ほどはマキワラの下に敷いた杉皮で押さえています。

ウマノリを乗せて棟が上がりました。
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0823 葺き上げ/間もなく終了

表側が葺き上がりました。
平行しておこなわれていた現場が竣工したので、、「美山茅葺き株式会社」からナガノ君が応援に来てくれて、一気にペースが上がりました。
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ひとり増えるだけで倍以上の作業がこなせます。ナガノ君が屋根屋として優秀であることはもちろんですが、やはり作業効率を上げるためにバランスの良いチーム編成が大切です。
わかっていはいても、なかなか実現するのは難しいのですけれどね。

裏側の葺き上げもあと少し残っているので、仕上げてしまいます。
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通常棟を返す際には、片側のケラバを一番上まで積んでしまってから、反対側を葺き始めるものなのですが、人数の少ない現場では段取りも色々と臨機応変にして行かなければならなかったもので。

明日からはようやく棟を積み始めますが、棟飾りの一番上に渡す「ユキワリ」にするための丸太は、お盆の前に近くの山から伐り出して乾かしてあります。
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かつてのように茅葺きが農業の一環として行われることが一般的では無い以上、茅葺きに必要な材料は全て屋根屋が責任を持って用意させてもらえるようにしてはあります。が、こちらのお宅のように家の周りで茅を集めて下さっていれば、大切に使わせてもらいますし、山をお持ちであれば、間伐がてらに必要な材を伐り出して来て使わせて頂きます。
それらの積み重ねが、茅葺きの費用を抑えることになりますので。

070819 続々・レンを流す (茅葺きの小屋組)

棟上げのあと、棟の高さと並んで気にかかっていたのが、この部分です。
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ロフト部分の棟木が、茅葺き屋根の棟木を支える棟持ち柱としっかり組まれてしまっています。
「しまっている」というのは、本来の茅葺き屋根の小屋組は、柱梁からなる建物の箱の上にカゴが被せてあるように乗っかっているだけで、構造体としては建物部分と別々のものなのです。

そのため茅葺き屋根の小屋組は、屋根を葺いているとぐらぐら揺れるなど頼りないものです。大工さんもそれをご存知だからこそ、丈夫になるように気を利かせてくれたようです。
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しかし、揺れるということは総持ちで持っている茅葺き屋根が、地震の揺れや風圧力を上手くいなしている訳ですから、変に固めてしまうと構造材に局所的な無理な力がかかり、致命的な破損につながらないかと心配なのです。

ロフトの天井は建物部分が屋根裏に盛り上がった構造なので、茅葺きの小屋組はその上に乗っかっていなければならないはずです。
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とはいえ、せっかく大工さんが良い木を用意して、鼻栓継ぎで丁寧に組んで下さってもいますので、なかなか縁切りしましょうとは言い出せなかったのですが、悩んだ末に結局ちょん切ってもらいました。

そして変わりに、ロフトの棟木の上に建つ棟束と貫を通して繋いでもらいました。
棟持ち柱とロフトの棟木が切断されて、より高い位置で貫が通されたことがおわかり頂けるでしょうか。
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棟束は茅葺きの小屋組の方に属する部材ですから、これと組むことは問題ありません。むしろ普通に行われている必要なことです。

ちなみに棟持ち柱が立っている桁材(ナカオキと言います)は、天井板の上に転がしてあるだけで固定すらされていません。
棟持ち柱は大工さんの絵図板では、渡りあごを噛んだ梁材とも組んでありましたが、それは早めに気付いて外しておいてもらいました。ロフトの棟木との接合は刻み場を覗かせてもらった時には気付かなかったもので・・・
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と、いうかナカオキは本来渡りあごを噛んだ梁材の上に置かれるものなのですが、今回は新築ということで部材を減らすために、そのあたりの構造は多少整理されています。

モトを上にするレンを全て流し終えて、屋根のかたちが完全に確認できました。
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ロフトの天井と茅葺きの下地との関係も、わかりやすくなってきたのではないでしょうか。

070818 続・レン(垂木)を流す

茅葺きの家は基本的に2重梁になっていて、上の梁は桁の上に「渡りあご」を噛んで乗せてあります。合掌組みの場合は、必ずこの上に合掌材の根元を置きます。レンを縄で固定する草桁もこの梁の上に固定します。
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棟木から下屋桁まで渡したレンを受ける位置に調整して、草桁を梁にダボ栓で固定します。
こうして丸太の草桁は建物の壁面から離れて隙間が出来るので、縄をまわして固定することができるようになります。

2本1組にしたスミレンを棟木に架ける位置が決まり、大間(平)側の草桁が固定されると、その上に小間(妻)側の草桁をスミレンを受ける位置に調整して固定します。
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垂木を受ける枠を、垂木に合わせてあとから設置するところが、茅葺き屋根の下地組みの変わっているところです。

枠となる草桁を受ける梁は、垂木であるレンに合わせて調整できるように、余裕を見ておく必要があります。
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草桁の位置が決まればはみ出した部分は、竹の下地を組んで行く際に邪魔になりますから切ってしまいます。
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070813 レン(垂木)を流す

棟の上がった家にはなるべく早く垂木を流して屋根のかたちをつくり、雨から養生できるようにしておかなければなりません。
ベテランの大工さんたちも、茅葺きの屋根下地を新しく組むのは初めてなので、一緒に作業しながら説明させてもらいます。茅葺きの小屋組は現場合わせで組んで行くので、順番を間違えないようにすることが肝心です。
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まず、スミレン(隅垂木)の位置を決めます。屋根全体のかたちがここで決まってしまいます。

茅葺き屋根の垂木は丸太のモト(根元)を上にしたものと、スエ(梢)を上にしたものを組み合わせて使います。
モトを上にしたものはホゾを切って栓を打ち、2本1組にしてあります。
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それを棟木に引っ掛けて、軒の方は下屋の桁に乗っけてあるだけです。
2本1組にしたレンを両側のスミレンを含めて何組か放射状に並べて行くことで、屋根のかたちをつくっていきます。

棟木から下屋桁に渡したレンを縄をかけて固定するために、ちょうどレンを受ける位置に草桁(丸太の桁)を配置しなければなりません。
草桁を乗せる梁の鼻は長めに出しておいて、草桁の位置を微調整できるゆとりを持たせてあります。
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ところが、そのゆとりをはみ出しての調整が必要なことが判明してしまいました。
棟が上がった瞬間から、何だか低いような気がして胃が痛かったのですが・・・大工さんと何度も打ち合わせしながら進めて来ましたが、実際に建ててみて現物を前に説明しなければ、伝えきれないことが残ってしまうことに歯痒さを感じます。

とにかく、棟の高さを上げないことにはどうにもなりません。ただちに棟木の上に束を立てて小棟が乗せられました。
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緻密な仕口を刻み細かい寸法を合わせる大工さんと、現場で豪快な解決策を採用する大工さんと、その割り切りの良さには驚かされますが、とても面白いと思います。
まあ、茅葺きの屋根下地はそもそもが、屋根屋や近所の人達が現場合わせで組んでいますから、柔軟な気持ちで臨機応変に対応して行けば良いと思います。

とにかく屋根下時の勾配も、大間の側は美山の茅葺き民家の標準に近づいて、棟上げから続いていた懸念もすっきり解消しました。
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スミレンの頭の位置で小間の勾配も決まって来ます。
そちらはお盆明けに。

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0812 葺き上げ/夏の水2つ

中干しを済ませた田んぼに、出穂期を迎えて水があてられています。
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落差があっても畔が傷まないように、必要な量の水だけ田んぼへ引き入れられるように、石がさりげなく上手に使われていて感心させられます。

毎日あまりの暑さに葺き上げのペースもやや鈍ってしまいましたが、ここまで葺くと雨漏りの心配はまずなくなります。
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お盆までに棟を上げることができなかったのは残念ですが。

さすがにこの暑さでは無理も出来ませんし。
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家の裏の横井戸からは、猛暑続きでも変わらず冷たい水が湧き出しています。
この水で入れて、この水で冷やした麦茶が猛暑を乗り切る支えとなってくれました。

0809 古屋根解体(棟返し)

裏側が棟近くまで葺き上がったので、表側の古屋根の解体に取りかかります。
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この屋根の表側は、アリゴシから下半分を何年か前にこぜあげて葺き替えてあります。

そこで今回は上半分だけを葺き替えます。
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美山のやり方では屋根の傷み具合に合わせて屋根を上下に分割して葺くことができますが、上半分を葺き替える際には棟も積み直す事になるので、表裏両方を必ず同時に葺き替えます。
これを「棟を返す」と表現しています。
ひっくり返す訳ではありません。

下半分は葺き替え済みとはいえ、数年経ってその分減っていますから、それに合わせて新しい屋根を葺くと薄くなってしまいます。
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それを避けるためにまず古い屋根を整えて、段を付けてから葺き始めるようにします。

段を付けるとはこんな感じです。
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減った屋根につられないようにして、正しいかたちを出せるようにしておく訳です。

070806 床組、貫

床組の部材は家が完成してしまうと人の目につく事はなく、しかし、湿気や虫害には最も曝されるところですから、昔から見た目は悪くとも乾燥し切った丈夫な古材が、転用されることの多いところです。
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砂木の家でも、何かに使えると思って集めていたヒノキやクリの柱などが、大引として用いられました。

束は茅葺き屋根の棟飾りに使う、ウマノリの端材です。
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自宅として暮らしていた小屋のまわりが散らかるのを気にかけながらも、いつか役に立つ事を信じて後生大事に抱え込んでいた木切れたちが、立派な仕事に就いてくれて何とも言えず嬉しいです。

砂木の家の耐力壁となる壁は、土塗りの荒壁とするので、柱のあいだに筋交いではなく貫が渡されました。
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構造用コンパネや筋交いでひたすら固めていく方法だと、限界を超えた途端に一気に破壊されることがあり得ますが、伝統的な貫構造は、小舞竹、壁土と一体となることで、丈夫なうえに粘り強い壁をつくります。