屋根からの眺め」カテゴリーアーカイブ

060319 箱棟/大和棟/破風

箱棟の大和棟には「養蚕のために2階の通気窓が必要」というような、切実な機能上の訴求があった訳ではありません。採用することによるメリットとデメリットを考えてみると、結構微妙なバランスであるにもかかわらず、その地域を代表する意匠となるまでに普及している要因としては、結局「格好良い」からではないかと思うのです。
カッコイイかどうかというのは主観の話になってしまいますが、モノの要素としては重要な事柄でしょう。僕は多少機能面に不満があっても、デザインが気に入っている道具は案外愛せます。が、その逆はなかなか難しい。

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さて、関西は茅葺きといえば入母屋造りが殆どで、美山町もその例外ではありません。けれども,美山周辺の入母屋の茅葺き屋根は、民家としては例外的なほど大きな破風(ハフ:三角の煙出し)を設けています。
風破を設けて入母屋造りにすること自体は単なる装飾ではありません。排気効率を高めるだけではなく、妻側だけ傷んだときに棟を障らずにその面だけを葺き替えることができたり、色々と便利なこともあります。ですが、破風はとにかく付いていれば良いのであって、大きくしたところであまり良いことはないばかりか、風に対して弱くなるし、雪が屋根裏に吹き込んできたり、動物が入り込みやすくなったり、何かと悪いことばかり増えてしまいます。

それでも、美山町の伝統的建造物群保存地区に行けば、大きな破風を上げた家ばかりずらっと並んでいるのは、やはり、「大きい方がカッコイイ」と皆が思ったからではないのかなあ。
sh@

060318 箱棟/大和棟

箱棟の家を反対から見ると、こんな感じになっています。
京都南部から奈良にかけてよく見られる形式で、「大和棟」なんて呼ばれたりしていますね。
このお宅は片側入母屋ですが、両方切妻にしているところも多くあります。
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大和棟も「傷みやすい隅の部分を補強して、台所の上から茅屋根を遠ざけ火災にも備える、理にかなった新しい茅葺きのデザイン」と評されるのですが・・・
箱棟ほどには茅を葺き替えるときに頭を悩まされることはありませんが、瓦葺きにあるまじき勾配で葺かれた夘建(茅屋根の端に立てられた壁)の瓦が結構傷んでいるので、瓦屋さんを呼ばないといけなくなります。また、この形態だと構造的な屋根の強度にも、影響を及ぼしているでしょう。

箱棟も大和棟も、あいな里山公園の交流民家と同じようなかたちの屋根に、改造を施して生まれた比較的新しい意匠です。茅屋根として葺き替えを前提に考えると、少々無理が生じているようにも思えるのですが、思うに、これらの意匠は葺き替えの際の古茅が、農業経営の中であまり重宝がられることが無くなった時期に生まれたのではないでしょうか。

肥料として古茅が必要でないのならば、茅葺き屋根は可能な限り丈夫に葺いて、葺き替えスパンを長くした方が良いということになります。場合によっては次の葺き替えの際の段取りの悪さに目をつぶってでも。
もし、そうならば、箱棟や大和棟を産み出した動機は、トタン巻きのカンヅメ屋根に踏み切るのとかなり近いものだったと思うのですが・・・

茅葺き(に限らないけれど)民家は、つくづく時代に合わせて柔軟に姿を変えていくものなんですねえ。その姿を美しいと感じるのも、長い長い年月をかけたトライアンドエラーの成果だからなのでしょう。
もっとも、今我々が目にしている中にも、エラーが混じっていないという保証はありませんけれど。
sh@

060317 箱棟

箱棟(はこむね)ってご存知ですか?
棟の部分が箱を被せたように、大工仕事であつらえてある茅葺き屋根です。ふつう瓦が葺いてあって、茅屋根の葺き替えの際にはいちいち解体しません。
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傷みやすい棟の部分を補強して、一見合理的なようにも思えるのですが、果たしてどうでしょうか。
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茅葺き屋根は、並べた茅を押さえたところを隠すように、次の材料を置くのが基本です。地方によって様々に工夫されている棟収めもまた然り。
ところが箱棟の場合は、最初から隠すふたが用意されているところへ、茅を葺き詰めていかなければなりません。そうすると、最後のひと針分の茅をいかにして押さえるのか?

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この隙間をどう埋めましょうか?茅を詰め込んだだけでは、どんなに固く詰めたところで、やがて屋根全体が乾燥して落ち着いてくるに従って、ゆるんで抜けてしまいます(箱棟によっては、茅を思い切り詰め込んだら壊れてしまうものもあるし)。針金でかきつけたりぎりぎりのところで押さえたら、押さえるところが屋根表面に近すぎて、屋根の中に水が廻る原因になりかねません。

実際にはそうならないように何とかしている訳ですけれど、手間ひまかかるほどには長持ちということも無いし、下手するとかえって頻繁な補修が必要になりかねません。
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本当に苦労しますよ。
sh@

060314 トタンは茅葺きの缶詰

現在、日本の茅葺き屋根のほとんどにトタンが被せられています。
茅葺き民家愛好家の方からは、「カンヅメ」等とよばれてあまり評価してもらえないようです。

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しかし、トタンを被せたからこそ、茅葺き屋根を成り立たせていた伝統的な農業が行われなくなった後も、これほど多くの茅葺き民家を残せて来れたことは、間違いなく事実です。

トタンで覆われた屋根は、まさしく「茅葺きの缶詰」なのです。茅葺き屋根に厳しい時代を乗り切り、未来へ託すための。
sh@

060311 オオイヌノフグリ

変な名前ですねえ。いまさらながら。
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本当に暖かですね。この花を見ると冬はもう終わりだと実感します。
春はまだ始まったばかりですが、
花のあいだを小さなカナヘビもちょろちょろとしていました。
sh@

060228 リキオウ/マルゴ

カヤマルでは参加者に、生の現場を体験して職人やお施主さんと本音で付き合ってもらい、茅葺きの良さも苦労も身を以て感じてもらいたいと願っています。
そこで、「お客さん」意識を払拭してもらうためにも、現場でバリバリ働けるように、「地下足袋持参」に拘っているのですが、参加者の殆どは地下足袋をお持ちではありませんから、どこへ行けば買えるのか?どんなものを選んだら良いのか?毎回地下足袋購入ガイドを用意してきました。
で、そこで推奨してきたのが「力王」の「ファイター」と、「丸五」の「ジョグ足袋」なのですが、地下足袋のトップブランドである力王は、時折日経新聞の題字下広告に顔を出します。
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日経新聞と地下足袋という取り合わせを、何ともユーモラスに感じてしまうのは僕だけでしょうか。
しかも、コピーがまた良い。現行は「個性ある精品」。以前は「確かな踏み応え」フミゴタエ!
さらにその前は「強い、履きよい、かっこ良い」だったはず。カッコイイ!自分で言っている!
sh@

060223 里山の庭師

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交流民家の屋根がようやく竣工にこぎ着けたので、あいな里山公園内にある茅倉庫周辺の茅刈りを行いました。ここは、茅葺屋が市民事業として「あいな茅システムズ」を展開している拠点であり、茅葺きのバックグラウンドソフトである茅刈りを中心とした、里山の維持管理に取り組んでいます。

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茅場の中にあったカヤネズミの古巣。茅場を代表する野生動物で、親指くらいしかないとても小さな野ネズミです。

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こちらは、ウグイスの古巣。茅場の脇に生えている、シノダケの葉を編んでつくられています。

かような生き物達に、生活の場を提供してきた里山の多様で豊かな自然環境は、人が生産活動の場として活用することで産まれ維持されてきました。里山は使ってこそナンボ。保護という言葉は似合いません。もちろん、使い方を間違えるようでは困りますけれども・・・
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茅刈りを済ませて、日の光が当たるようになった茅倉庫のまわりは、まもなく春の野花に飾られるでしょう。林の縁の落ち葉かきをしたところには、早速モズがやってきてエサを探していました。
人の営みの蓄積が風景をかたちづくる。正しい営みを重ねていくことでしか、美しい里山を取り戻すことはできません。
sh@

051223 雪の日

この冬は数年振りに雪の多い年になりました。
軽トラで美山の自宅へ戻ったら、駐車スペースがこのとおり。
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5時前に帰って軽トラを停めるスペースをつくったら7時。さらに乗用車を掘り出したら9時。
汗をかいてお腹をすかせてようやく家に入ったら、水道が凍っていて風呂にも入れず暖かい食事も出来ず・・・

豪雪地帯という程ではありませんけれども、ここに家を建てようと思えば雪への対応も考えない訳には行きません。
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