茅葺き現場日誌@武相荘」カテゴリーアーカイブ

1218 骨折・脱臼(屋根が)

今日は朝から快晴でした。
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晴れた朝の冷え込みは堪えますが、じめじめして変に生暖かいよりも、やはり冬はパキッと冷たく乾いた朝が、らしくて良いです。

東側の小間は全ての古茅を取り除きました。
と、いうのもスミレン(隅垂木)が折れてしまっていて修理が必要だったからです。
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このスミレンは折れたままで何回も葺き替えが繰り返されていたようです。
茅屋根の仕上がりを揃えるために、折れてへこんだ下地の上だけとてつもない量の茅が葺き重ねられていました。

折れたままで何十年も台風や地震をやり過ごして来た訳で、屋根屋の言葉で「総持ち」と言いますが、茅葺き屋根が屋根全体で荷重を分散して受ける構造であることが、はからずしも証明されています。
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とはいえやはり下地が揃っていなければきちんとした屋根は葺けません。
養生シートのなかった頃には、大きく屋根をめくるリスクを避けるために、あえて修理をなおざりにして来ていたのかもしれませんけれども。

折れたスミレンを新しいものに交換し、外れてずり下がった継手を、今回はジャッキもチェーンブロックも使えない場所だったので、「人力」で担ぎ上げて嵌め込みました。
ヤレヤレ。
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新しいヤナカ(母屋)を入れて補強し、横竹を整えて下地の完成です。
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これで、最後まで手をつけていなかった東側の小間にも軒を付け始めることが出来ました。
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軒が付いたら気持ちの上では半分済んだようなもの。
ひとつ目の大きな山は越えたので、あとはどんどん葺いて行きます。
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1215 続・軒付け

冬の雑木林と言えば、落ち葉を踏んで歩く楽しさ。
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美山に住むようになってから忘れていましたよ。
日本海側では落ち葉は常に湿っていて、踏んでもかさかさと鳴ってはくれませんから。

先に軒を付けた表側はそろそろ葺き上がりの工程に入りました。
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土手のようだった裏側にも軒が付きつつあります。
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軒を解体する際に、四隅に「つくりかや」が取り付けられているのを見付けました。
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関東の職人さんはあまりされないと思うのですが、前回の葺き替えも西国から来られた方がされたのでしょうか。

こちらは拙作のつくりかやを取り付けた新しい軒です。古いものとはかたちが少し異なります。
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僕の目から見ると取り外したつくりかやは、軒を付けて葺き上がって行くにあたって、どうにも使いずらそうなのですが、これを取り付けた職人さんにとっては、そのキャリアの中で磨かれたベストのかたちだったはずです。
どのように屋根を収めていたのか、ぜひお話を聞いてみたかったものです。

今年は東京でも冬型の気候配置が安定してくれず、12月なのに季節の変わり目のような天候不順な毎日が続いています。
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それに加えて、宿舎がノロウィルスの洗礼を受けてしまいました。こういうとき共同生活は脆いです。
今は回復しつつありますが、ここ何日かはなかなか前線に人数が揃えられませんでした。

皆さんも、時節柄うがい手洗い励行して下さい。

1212 雑木林と茅葺き屋根

今回は覚園寺ほどの巨大な軒を付ける訳ではありませんが、関東風の覗いた(水平にせり出した)軒を付けるために、やはり力竹で軒を補強します。
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表側の軒が付いたので、小間(妻側)、裏側と軒付けのために古い屋根を解体して行きます。
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こうして見ると土手にしか見えませんが、裏面の大間(広側)の屋根です。

こちらにもカエデやケヤキの若木が育ちつつありました。
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とりあえず、表面の土壌化した層を欠き落として屋根を乾かします。
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ところで茅葺きの手入れのために屋根に生えた苔を落とすべきかどうかは難しいところです。
屋根は乾いていた方が良いのは当然なのですが、屋根の表面は少しずつ分解されて減って行くので、あまり頻繁に苔を落とすとその速度を速めてしまいかねません。
また、傷みが進んだ屋根では、苔をどけるとここの屋根のように穴が開いていて、止めを刺してしまうことにもなります。

春に屋根に積もった雪が落ちる時に、一緒に落としてくれるくらいで丁度良いかもしれません。

そして、表側程ではありませんでしたが、やはりこちらにも立派なカブトムシの幼虫が。
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それにしても、大きい!
小学生の頃に飼っていましたけれど、こんなに大きかったかなあ。
建物を博物館として活用している関係でエアコンで全館暖房していますが、昔の家なので断熱材の入っていない天井から熱が逃げて、屋根裏は相当暑いようですが、それと関係あるのでしょうか。温室栽培。

ひょっとしたら、全館冷暖房は屋根の傷みとも何らかの関係があるかもしれませんね。
茅葺きの良さを活かしながら、現代的な生活にも適合させるための工夫を重ねて行かなければと思います。

武相荘の敷地内には本当にきれいな雑木林が残されています。
5,6年前に訪ねた時には、周りにもまだ他に雑木林や田んぼが見られたはずでしたが、今回来てみるとここだけが孤島のように残されていました。
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武相荘に町田中のカブトムシが集まって来てしまったのでしょうか。

1208 軒付け

現状の屋根はススキで葺かれたものにヨシが差し茅されています。
周囲を木々に囲まれた武相荘なので、今回は雨のかかる屋根面は全て、耐久性に勝るヨシを用いて葺き替えます。
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建物に横付けできない現場では、材料を運ぶひとは大変です。ご苦労様。

古屋根の軒を解体して行くと、一番下の茅は渡した縄をU字に曲げた竹串で止めて固定したありました。
他であまり見たことのないやり方ですが、結構ちゃんと止まっていました。
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ちなみにイギリスの伝統的な茅葺きでは、U字に曲げたヘーゼルナッツの若木(ナラの若木のよう)の串で、屋根全部の茅を止めていますが、それで緩んだりする心配はありませんでした。

例によって雨養生の都合から、軒付けに必要な分だけ解体して葺き始めました。
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下地は竹の垂木にシノタケが横に渡してありました。ちょっと華奢なようにも感じますが、小屋組がそれに合わせて出来ているので問題は無さそうです。

ひとつかみずつヨシを縄でかきつます。
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軒全体を支えて軒裏の化粧ともなるので、きれいで丈夫なヨシを選んで使います。

次に屋根下地に対して茅を角度を付けて葺いて行く事が出来るように、短めでテーパーの効いた材料を並べます。
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通常なら稲ワラを使うところですが、より耐久性を持たせるためにも、古屋根の解体した材料から程度の良いススキを選別し、加工して使用しました。

その上に、ヨシの中から短めでテーパーの効いた束を選んで並べて、竹で押さえて止めます。
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これがほぼ軒の厚みになるので、厚さが揃うように足したり抜いたりして調整し、端のラインが真っすぐに揃うようにして行きます。

1206 武蔵野入り

ナカノさんの「きたむら茅葺き屋根工事」をお手伝いするために、博物館として公開されている旧白州次郎/正子邸「武相荘」の葺き替えにやって来ました。
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今年最後の現場も関東です。

手入れの行き届いた雑木林に囲まれた、建物の屋根は一面の枯れ草に覆われていて、夏場にはさぞかし青々としていたことでしょう。たくさんの実生も枝を伸ばして周りの林と一体化しようとしているかのよう。
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すぐ軒際にあるシラカシではなく、親木の少し離れたカエデやケヤキの苗が多いのが不思議と言えば不思議です。

軒裏を覗くと、軒の端は乾いているのに中程が濡れています。
屋根の中に雨水が入り込んでしまっている証拠です。
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果たして幼木を引っこ抜くと巨大な穴が・・・
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では、木の根がこの穴を穿ったのかと言えば、必ずしもそうとは限りません。
普通の状態では雨水は茅葺き屋根の表面を流れるだけで染み込むことは無いので、乾いた屋根の内部に木が根を伸ばして行く事は無いはずです。実際屋根に芽を出した実生や雑草を引っこ抜くと、屋根表面の風化した部分に広く浅く根を張っている事が殆どなのです。

穴の中からは今まで見たことのないような、立派に太ったカブトムシの幼虫がごろごろ出て来ました。
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カブトムシの幼虫は乾いた屋根までせっせと食べては良質の腐葉土に変えてしまう、茅葺き屋根に取っては癌のような困った存在です。

古い屋根の断面を見ると、ススキで葺かれた屋根に後年の補修でヨシによる差し茅がされてますが、差されたヨシが丸ごと水に浸かったような状態になってしまっています。
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差し茅の際に古い屋根との取り合わせや勾配が合っていないと、このように屋根の表面ではなく中を雨水が流れてしまうことがあるようです。これでは、せっかく差した部分が屋根としての用を成していません。特に異なる素材を混ぜる時には注意が必要です。

要するに、穴があく程屋根が傷んだ原因はひとつには絞れません。
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周りを木々に囲まれた、茅葺き屋根に取ってはやや厳しい環境であることを肝に銘じて、関西の屋根屋が笑われないように、長持ちする良い屋根にしていきたいと思います。