0818 続・葺き上げ

お盆が明けても暑さが和らぐ気配が見えませんが、古民家族による船坂での旧坂口家の屋根葺き替え再開しました。
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今回の目標は「誰も倒れないこと」。
暑い中無理は避けましょう。

雨養生のシートをめくると、いきなりこんなものが。
菌糸で真っ白になった茅屋根。梅雨で濡れた屋根にシートを被せて、夏場に一ヶ月放置でしたからね・・・
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倉庫保管中に濡らして菌糸まみれになった茅を葺いて、屋根にキノコを生やしてしまったことがありましたっけ。
ま、濡れていたのは表面だけなので、真夏の太陽に灼かれて絶えるでしょう。

平日開催ということもあり参加メンバーは常連組中心。さすがに作業の段取りも飲み込めて来て、職人の指導のもと手際良く葺き上がって行きます。
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それにしても陽射しから逃げ場の無い屋根の上は、照り返しもあってかなりの暑さになります。

屋根の上と同様、屋根の下での作業も手際良くなって来ました。
茅束を運んでいるだけでぱらぱらと茅くずが落ちる茅葺き。掃除は欠かせません。
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掃除していてもそもそも散らかる現場ですから、ご近所のご理解が無ければ茅葺きは続けられません。
古民家族の活動を温かく見守って下さる、船坂にお住まいの皆さんに感謝です。

2日間の作業でだいぶ屋根らしくなって来ました。
しかし、今シーズン葺けるのは、実質残り1日くらいです。
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残りの作業量を思うと余裕はありませんが、それよりも誰も熱中症で倒れることも無く、怪我も無く、酷暑の中無事にやりとげられたことに、今回は価値がありました。水分補給対策に気を配ってくれた、学生スタッフのおかげですね。

みなさん、おつかれさまでした。

0801 萩 行 '10

怪我をして以来初めて山口県の萩の町を訪ねて、母と祖父母が眠るお墓に参って来ました。
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山道の先にある田舎の墓地なので車椅子でどうかな?と思っていましたが、何とかなるものです。視点が変わると、以前は全然気付かなかった迂回路がちゃんとあるのを見付けました。
地元のおじいさんおばあさんたちがお参りされているのですから、えぐい急坂以外のアクセスが無いはずは無いのに、目には映っていても意識できないものは見えていないものですね。

毛利家の菩提寺である東光寺まで足を延ばした帰り道、葺き替えて間もない茅葺き屋根の小さな家がありました。
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松下村塾の前身となった「玉木文之進旧宅」とか。公開されていたので見学させて頂きました。
昨年末に葺き替えたそうで、ボランティアの案内の方が「70代の職人が20代の後継者連れて葺きに来ました」と、嬉しそうに話してくださいました。

そういえば神戸でのくさかんむりのイベントに参加して下さっていた方も、山口県で茅葺きの修行をはじめたと聞いておりましたが、元気でやっておられるのでしょうか。
茅葺き屋根はその土地毎の日々の暮らしの中で育まれて来た文化ですから、地域性豊かな日本の茅葺きを次代に伝えるためには、各地に深く根を下ろした後継者が育つことが、とても大切なことだと思います。

0719 男鬼の茅葺き2010

今年も滋賀県立大学人間文化学部有志「男鬼楽座」による、男鬼での茅葺きに参加して来ました。
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崩壊寸前だった山手側の屋根を、軒から順に葺き替えはじめて3年目。とうとう棟にまで至りました。

棟に近づくと、葺き並べた茅の先が越えてはみ出てしまいます。はみ出た分が無駄にならないように、茅を切るのも屋根の残りにに合わせて長さを調整しながらとなります。
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茅切りしている地面から、バケツリレー式に茅を届ける葺いている場所までの距離も遠くなりますが、加工した茅の「仕掛品」が出ないように、葺く人と茅を切る人とで連絡を密にして、互いの作業内容を確かめ合いながら進めることが大切です。

毎年少しずつ茅を集めて、葺いて、積み重ねて山側の屋根はきれいに葺き替えられました。
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既に住む人がいなくなって久しい男鬼の集落ですが、人が関わり続けることで集落としての気配を保ち続けています。人の営みが重ねられた環境は、自然の中に適度なアクセントを加えて、原生の自然よりもはるかに多くの生き物たちに暮らしの場を与えています。
山村の佇まいを眺めていると、人の暮らしもまた自然の一部なのだと実感します。

自然に正直に、丁寧に暮らしたいと思う人は増えていますが、自然とともにある正しい人の暮らしとは、エコとかロハスとか外から持ち込むものではなくて、その場所が求めている声に耳を傾けて、ようやく教えてもらえるものだと思います。

長く営まれて来た集落の暮らしは、まさにそんな生き方のお手本でです。
男鬼に携わった学生たちは、そこでの営みを通しての様々な発見を、きっと少しずつ社会に還元して行ってくれることでしょう。

0711 葺き上げ

軒がついたので茅を並べて屋根を葺いて行きます。
オシギリで切ってつくった短い材料を間に挟んで、葺き並べる茅が屋根の下地に対して一定の角度を保つように調整します。
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この屋根は勾配が緩いこともあり、短く切った茅の先の方を踏みつぶして、よりテーパーの効いた材料に加工して、葺いた時に角度を稼げるようにしておきます。
茅は適材適所に選り分けるだけではなく、時に必要に応じて加工することもあるのです。

長い茅を端から端まで薄く並べたら、その次は短い茅を同じように並べる・・・というのを繰り返し厚みを出します。何層にも重ねるレイヤーの材料を選ぶことで、勾配を調節しながら葺いて行きます。
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滑りやすいヨシを混ぜて葺くときは、このようにあらかじめ滑り止めの板を吊っておきます。

一定の厚みに茅を並べたら竹で押さえて止める訳ですが、押さえの竹を下地に縫い止める様子をあらためて。
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青い竹の垂木に縄をかけるために、写真で竹の上側の際から差し込まれた針から、「針受け」の役目の人が縄を抜きます。

今度は写真で竹のすぐ下側の際に出るように、針受けの人が声をかけ得て誘導してあげます。
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良い位置に出て来たら、最初の縄を針にかけてから引いてもらえば垂木に縄をかけることが出来ます。
さらに男結びで止めるために2重がけにする方法はこちら

竹を縫い止めて仮固定したら、ずれ止めの板を外してから叩いて形を整えます。
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叩いて伸ばした後で理想的なかたちに収まるように、板を当てているときから想定しながら並べておかなければなりません。

ひとつひとつの作業に意味があることを考えなければならないのは、もちろん葺き並べる時も同じですが、軒がきちんとつけてあれば、それを目安に葺いて行けるからずっと捗ります。
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どんどん葺いて行きましょう。

0626 第1回茅葺きフォーラム@富山県・五箇山

表題の集まりに参加するために、合掌造りで有名な五箇山の相倉(あいのくら)集落を訪ねて来ました。
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昨年まで毎年のシンポジウムを重ねて来た、㈶日本ナショナルトラストの全国茅葺き民家保存活用ネットワーク協議会が、㈳日本茅葺き文化協会 と生まれ変わっての設立記念フォーラムです。「茅葺きの暮らしと生業」と題して開催されました。
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今回のテーマに「生業」とあるように、情緒的な話が目立った初期の頃に比べると、社会の中で茅葺きをどう活かして行くかという未来志向の話をたくさん聞くことが出来ました。

せっかく独立した法人格を得たことですから、今後は植物学や都市工学や農村経営学等々、様々な分野の専門団体と協調して、多様な切り口から茅葺きの可能性をさぐる機会を増やしてもらえると嬉しいです。

フォーラムの後は参加者同士お酒を酌み交わしながら場所を移しながら、夜更けまでの茅葺き談義。
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合掌造りの民宿に泊めて頂いた翌朝の、温かい朝のお膳は、袋入りのパンとパック牛乳という病院や施設の朝食が続いていた身には、しみじみと美味でした。

お味噌汁の匂いで目覚める朝の幸せ!

ところで相倉の集落を散策していると、屋根にぶらさがるハシゴが目につきました。
何に使うんでしょうね?
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2連梯子を伸ばしても合掌造りの棟には全然届きません。雪下ろしに上がるときのために、足りない分を設置してあるのでしょうか?
でも、夏の間は外しておかないと、屋根もハシゴも傷みそうですが・・・他に何か役割があるのでしょうか?

0620 続々・軒付け

1ヶ月程空きましたが、船坂では今回もまだ軒付けが続いています。
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ここは茅葺き屋根の善し悪しを左右する工程で、後からやり直すことも手直しもできません。「いい加減」にして先を急ぐことは出来ないのです。
「屋根屋と雀は軒で鳴く(泣く)」

チームワークのもと丁寧な作業を積み重ねて来て、良い軒になったのではないかと思います。
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さて、下の写真、右の束は今年の早春に古民家族が刈って来たもの。左の束はどこかの茅葺きの天井裏にストックされていたけれども、トタンを被せたからもういらないや、というのを頂いて来たもの。
ちょっと煤けているのは、かまどで火を使っていた頃から保管されていた、ビンテージものだということです。
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どちらも同じススキですが、まるで形が違うのは保存期間の長さではなく、生えていた環境と刈り取る時期によるものです。
早春に刈り取ると花穂が伸びきり、葉やハカマが枯れ落ちて、シュッとした束になります。もう一方はおそらくまだ葉に緑の残る晩秋に刈ったもの。くしゅくしゅとした束になります。
植物としては同じススキですが、茅としては別の材料として使い分けます。

さて、ボランティアで指導にあたってくれている茅葺き職人のために、古民家族の武庫川女子大のメンバーが、昼食を用意してくれるようになりました。
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これで、もう「手弁当で手伝っているから」という言い訳はできなくなりましたね。ね?ヤマダさん
女子大生の手造り弁当食べてしまったら、そらもう張り切らなあかんでしょ!

0606 土壁塗り体験会

昨年の初夏に屋根を葺いていた赤井家住宅で開かれた、土壁塗りの体験ワークショップに参加させてもらいました。
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一年経って屋根も落ち着いた良い色になってきています。

下地の小舞は左官屋さんによってかかれていましたが、参加者にも少し体験させて下さいました。
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竹小舞を透かす光は何度見てもとても美しくて、施主ならぬ気楽さから、つい「このままでも良いのでは・・・」という言葉が出そうになります。
長い長い建物の生涯の中で、ほんの一瞬だけ見せてくれる涼やかな姿。

修理前の古壁の土や、解体された付属の蔵の土も混ぜられて、一年寝かせて熟成された土。建物の歴史や記憶もたくさん詰まっています。
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壁に塗るためには、まずこれを捏ねなければなりません。なかなか堪える作業です。塗る方は楽しいのですけれど、しっかりと土つくりが出来ていないと先には進めません。

土が出来たらさっそく壁に。子どもたちは素手でぺたぺた塗り込んで行きます。
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文字通り「自分の手で」家を造った体験は、彼等の中でどんな想い出として残るのでしょうか。

せっかくの機会なので、大人は鏝の使い方も勉強しましょう。
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見てると簡単そうでも、当然ながらやってみるとかなり難しい。でも、引き込まれる作業なんですよね。やり始めると止められない。

忙しい指導の合間を縫って、参加者の塗った壁をさりげなく仕上げてまわる左官屋さん。
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前に出過ぎす、突き放さず。絶妙な立ち位置でサポートして下さる職人さん。
自分が体験してから職人さんの仕事を見せて頂くと、あらためてそのすごさに感服してしまいます。

作業のあとには、あかい工房棟梁が変身した料理長による、豪快絶品料理の数々。
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素材を活かした味に舌鼓を打ちつつ、僕たちはおいしいごはんを食べるために、出会って、働いて、生きているのだということを噛み締めていました。

土壁塗り。左官体験会のお知らせ

ちょうど1年前くらいに屋根を葺かせて頂いた、あかい工房の赤井さんから土壁塗り体験会のお誘いを頂きましたので、ご案内いたします。
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神戸市の登録文化財でもある赤井家住宅は、様々な縁を取りもつ古民家の力を活かして行きたいとの、オーナーの赤井さんの想いに支えられて甦りつつあります。

茅屋根を葺く際にも、広く参加を呼びかけての茅葺き体験会を開催して頂きましたが、ホスピタリティ溢れる「赤井家の人々」の皆さんのおかげで、とても楽しく、充実した集いとなりました。
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昨年からたっぷり寝かせて熟成された壁土には、再生工事に伴いやむなく取り壊されたこの蔵の土も混ぜられています。
「泥」では無い、建材として誂えられた「土」に触れるだけでも、貴重な機会ではないかと思います。

詳細、申し込みはあかい工房HPをご覧下さい。

 

0530 続・軒付け

作業開始前に河原工房の会長さんから、伝統建築についてのレクチャーを伺います。
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様々な工法についての解説も興味深いのですが、代々受け継がれて来た歴史建築と関わる際の、心構えについて触れられたお話しが印象的でした。

気持ちが入ったところで今日も作業開始。
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茅屋根葺きのヤマ場、軒付けの中でもさらに気遣いの必要な、軒先の水切りとなる茅を葺いて行きます。

足場が狭くて材料を置けないので、地面にいる人が必要な茅を滞り無く届けてあげなければなりません。
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短かったり長かったり、先細りだったり頭でっかちだったり、自然素材である茅は束によって形も様々。そして良い加減につくられた茅葺き屋根の下地も、へこんでいたりふくらんでいたり様々。
ですから良い屋根にするためには、葺く人だけでなくて、材料を手渡す人が茅の形を見極めて、その茅が活きる場所へ届けてあげることがとても大切です。

葺き並べた茅を押さえて固定する竹を止める縄も、足場の上には置けないので地面から延ばして渡してあげます。
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このとき、縄の「うらおもて」に気をつけなければならないって、知っていました?
間違った方から縄の端を引き出すと、こんがらがって使い物にならなくなってしまいます。

色々気を使って届けられた縄の端を、茅屋根を貫通するでっかい針の穴に通して、茅押さえの竹を縫い止めて行きます。
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針の角度に注意しないと、正しい位置から竹が動いたり、雨漏りの原因をつくってしまいますよ。

縄の端を垂木にかけてあげる役目の人も、ただぼんやり針先が出て来るのを待っていてはいけません。
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垂木の際に隙間が出来ないように針を差すためには、内側から声をかけて上手に誘導してあげられるかどうかにかかっています。

垂木にかけた縄で茅押さえの竹を締め上げて、男結びで固定。
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葺く時には地面から茅を渡す人と、屋根の上で葺く人。縫う時には針を差す人と、屋根裏で受ける人。そしてもちろん、隣りで作業している人とも。茅葺きはチームプレー、全員が呼吸を合わせなければ茅葺き屋根は葺けません。

0529 下地組み・軒付け

今週は山城萱葺き屋根工事のヤマダさんとサガラが来てくれたので、「何となく差し込んであった」軒の部分の下地を直してもらいます。
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茅葺きの下地は墨を打って直角を出す訳でも、ミリ単位でボルト穴の位置を決めてもありません。大雑把なものです。
でもアバウトだからこそ、局部に無理のかからない構造にするために、経験を重ねた感覚が必要です。
いいかげんは、良い加減。その加減がなかなか難しい。

職人が下地を直している間、参加者は宇治川からやって来たとてつもなく長いヨシを、用途に即して3つに切り分けます。
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と、言ってもヨシは堅いですから。「押し切り」を使いこなさなければ切れずに刃が欠けるだけ。

宇治川のヨシに加えて、自分たちであちこちで刈り集めたススキも使います。
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茅葺きのために「茅を集めなければならない」と考えるか、「身近に自分たちで集めたものが使える」と考えるかで、茅葺き屋根との付き合い方は変わってくると思います。

下地が整ったところで、軒を付けはじめます。
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まずはきれいめのススキを選んで、ひと掴みずつ丁寧にかきつけて行きます。
屋根の基礎になるところだし、軒裏から見上げたときの化粧にもなるから、焦らずに。

一服の準備をする流しには、昨年被せた苫葺きの屋根がまだまだ頑張っています。
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軽い、薄い、苫葺きですが、風が吹けばなびき、雨が降れば受け流し、なかなかしたたかに屋根としての務めを果たしてくれています。

やたらと散らかる茅葺きだからこそ、まめな掃除は大切です。
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でも茅葺きのゴミは、決して廃棄物にはなりません。僕たちが暮らし方を間違えなければ、畑が求めてくれますから。